ESG、SDGsを冠した投資の話題が増えています。地球温暖化の影響を反映しているのか、世界各地でこれまで経験しなかった自然災害に襲われています。誰もが地球温暖化の怖さを身近に感じ、不安を覚えています。環境、ライフスタイルの変化、解消でいない世界の南北問題、人権の平等など。ESGやSDGsと言えば、絵空事、きれいごとだとスルーされそうな空気を覚えますが、目の前にこれだけの災害や戦争の危機が迫ると誰もが真剣に向かい合わざるを得ません。
IFRSの専門家が新しいルール作り
だからでしょうか、ESGをテーマにした投資をより正確に理解し、手応えを感じ取れる仕組み作りの議論が目立ちます。例えば国際会計基準を設定したIFRS財団は、国際サスティナビリティ基準審議会を設けて投資内容の開示ルールについて議論を始めています。日本経済新聞によると、審議会は14人で構成されており、そのうち1人に日本の年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の小森博司さんが選ばれました。GPIFのESG投資を統括しているそうです。議論は多岐に渡るでしょうが、年内に気候変動リスクについて企業の情報開示のルールをまとめる考えのようです。
大歓迎です。機関投資家のみならず個人投資家も安心してESG投資を選ぶ土壌ができれば、多くの人が企業の動きを後押しでき、自分たちの未来を変えることができます。しかし、残念なことに難問が控えています。企業会計や投資基準など専門的な分野を深掘りして新しいルールに議論が広がったとしても、その成果をどのくらいの人々が理解できるのか。この疑問はどうしても残ります。
ESG・SDGsは誰もが知る言葉、でも35兆ドルの資金が飛び交う
ESGやSDGsは小中学生でも知っている言葉として広まっています。環境以外にも多くの目標を掲げられ、ひとつひとつはとても重要ですが、それぞれを解釈するのはそう簡単ではありません。こちらは右、あちらは左と簡単に判断できるテーマではなく、議論しながら一つの合意に仕上げるテーマもあります。言葉自体は多くの人々に知れ渡っているにもかかわらず、その理解や実態はさまざま。それが現在、ESGやSDGsを取り巻く環境ではないでしょうか。
しかも、ESG投資は35兆ドルといわれ、莫大なマネーがさまざまな金融商品に姿を変えて世界中を飛び回っています。なんとか詐欺とダブらせる不謹慎な考えはありませんが、投資に関心がある人ならESGやSDGsをキーワードにした金融製品などを耳にしたことがあるはずです。
専門家だけの議論は避けてほしい
ところが、企業会計や投資に関連する説明は専門的な知識がなければ理解できません。まず、IFRSと聞いてピンと来る人が何人いるでしょうか。会計基準の改革は資本主義の歴史を振り返るまでもなく、欧米が主導しており、後から日本が追随していくパターンが繰り返されています。IFRSは2000年代に欧州企業が採用し、日本でも10年以上も前にから従来の会計基準との違いを比較しながら、国際的な会計制度の潮流に合わせるかどうかを議論、適用が広がっています。日本の企業会計企業の財務・経理担当者ならすぐにわかるでしょうが、一般投資家にとっては「上場企業の財務内容を理解する際によく耳にする」程度かなと思います。多くの人はIFRSで理解がストップしてしまいます。
わかりやすく翻訳する過程で新たな議論も
そこで、ESGやSDGsの投資を巡る議論やルール作りには極力、幅広い分野や多くの人が参加できる体制を望みたいです。はやりの言葉を使えば、オープンソースに例えればイメージが湧きますか。IFRS財団の審議会には日本最大の機関投資家であるGPIFの専門家が参加します。とても良いことです。欧米か日本かどちらが優れているかという視点ではなく、会計や投資の制度設計に多くの視点が加わることは、遥か彼方に見える会計基準が少しは身近に感じられるようになるはずです。
しかし、GPIFだけでは物足りないです。議論の途中で一般投資家、自然環境団体など幅広い層から意見を求めて、方向性を確かめて欲しいです。専門家が会計制度に閉じこもった限られた視野で議論するとは少しも考えていません。その議論を多くの人にわかりやすく翻訳する過程で、議論不足が判明するはずです。
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