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JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

 JFEスチールが高炉1基を電炉に転換する方針を固めたそうです。高炉は鉄鉱石とコークスを原料に還元反応を起こして高品質の鉄を生産しますが、CO2を大量に排出します。これに対し電炉は鉄スクラップを電極で溶かすため、CO2排出量を大幅に抑制できます。しかし、鉄鋼業界にはヒエラルキーがあります。高炉には明治の富国強兵、その後の日本経済を支えてきた強い自負があります。電炉が生産する鉄製品と比較されてたまるか。日本製鉄に次ぐ第2位のJFEが高炉1基とはいえ電炉転換を決断。カーボンニュートラルに立ち竦む鉄鋼業界の苦境が浮き彫りになります。その決断力をEco*Tenします。

第1項目 透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。

                 1・5点

 日本経済新聞によると、JFEが転換するのは西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の「第2高炉」。次回の設備更新を見送り、電炉に転換する方針を固めました。時期は2028年ごろとまだまだ先ですが、現在の鉄鋼業界を取り巻く経営環境がが背中を押しました。

 世界の鉄鋼需要は順調に伸びています。世界経済の先行きはロシアのウクライナ侵攻などで不透明感が増していますが、世界鉄鋼協会は長期的に拡大傾向が続くと見ています。しかし、価格競争は激烈です。日本が技術供与して育成支援してきた韓国と中国がシェア奪取を目指して繰り広げる販売競争は日本の収益力を確実に奪い、日本国内の高炉をスクラップする方向にに追いやっています。

 かつて粗鋼生産量で世界でトップの座にあった日本は今や、中国、インドに抜かれて第3位。長年のリストラと合併の繰り返しで、日本の高炉メーカーは日本製鉄、JFE、神戸製鋼所の3社だけ。好調な世界の需要と対照的に日本国内の鉄鋼需要は低減し続けており、輸出拡大に活路を求めなければいけませんが、待ち構えるのは激烈な価格競争です。韓国や中国とまともに闘うためにも高炉を含め大胆な事業改革を決断せざるを得ません。

 しかも、鉄鋼産業が排出するCO2の量は日本の1割、日本の製造業の4割も占めています。カーボンニュートラル社会へ移行する日本にとって、鉄鋼産業の脱炭素は避けて通れない難問です。

第2項目 構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。

            1・0点

 JFEは日本国内に高炉8基を操業しています。すでに川崎市の東日本製鉄所京浜地区の高炉1基が2023年に休止する計画です。西日本製鉄所倉敷地区(岡山県倉敷市)の「第2高炉」が電炉に転換すれば、JFEの国内高炉は6基になります。国内需要が低迷しているなか、中国や韓国との競争力を維持するためには企業体質をより筋肉質にするしかありません。1980年代後半から始まった事業体制の再構築に終わりはなく、高炉の閉鎖も必然でした。JFEにとっては迷う経営判断とはいえず、むしろ雇用を守りながら鉄製品の生産効率を上げる計画として目の前に浮上していたはずです。

③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。

                                  1・5点

 JFEは宮城県の仙台製造所でエコアーク炉と呼ぶ電炉を稼働させています。鉄スクラップを原料にこれまで以上にエネルギー効率を高め、製鋼から圧延までの一貫体制で棒鋼・線材製品を製造しています。品質管理、工程管理などを通じて電炉の経験、ノウハウを蓄積し、CO2の排出量だけでなく国際競争で勝ち残れるコスト競争力を培っています。

 しかも、系列の多くに中小の電炉メーカーを抱えています。高炉の電炉転換を機にグループ内でCO2排出をより削減しながら、多種多様な鉄鋼製品を効率よく生産、加工する体制をめざすことになります。

第4項目 変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。

                     1・5点

 JFEは2003年、川崎製鉄と日本鋼管(NKK)が統合して誕生しました。川崎製鉄もNKKも、鉄鋼業界に君臨してきた当時の新日本製鉄や経済産業省とは一線を画して経営決定してきた会社です。過去の成功体験にあぐらをかいていたら、競争の土俵から蹴飛ばされるのは十分に承知しています。鉄鋼業界に高炉と電炉のヒエラルキーがあるなら、高炉には新日鉄とその他大勢のヒエラルキーがありました。経済合理性に従って高炉を電炉に転換する計画に過去のしがらみを念頭に渋っていたら、現在の日本製鉄と競争できるわけがありません。

 なにしろJFE誕生は、日産自動車のカルロス・ゴーン氏が断行した見直しがきっかけと言われているほどです。系列や取引慣行に捉われず価格を重視した部品・鋼材調達で、経営が一気に圧迫された経験を持ちます。業界の常識に安住していたら、どんな苦い思いをするのかを熟知しています。

第5項目 ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かう覚悟を持っているか。

              1・0点

 神戸製鋼は1983年、米国のミドレックスという鉄鋼メーカーを買収し、今のカーボンニュートラルを先取りする分野に進出しています。天然ガスと鉄鉱石を使う直接還元製鉄法をもとに発生した排ガスをリサイクルして燃費消費量を飛躍的に高めました。神戸製鋼は高炉メーカーの中でも新規分野に挑戦するユニークな存在ですが、多角化しすぎて中途半端の事業規模に終始しているのが残念です。高炉メーカーのファーストペンギンといえば、神戸製鋼をまず思い浮かべます。

 その意味でもJFEが高炉を電炉に転換するのが勇気なのか。多くの人は疑問を持つはず。将来、存続できないものを抱える余裕はどこの会社もありません。世界の鉄鋼需要はまだ伸びるといっても、鉄鋼製品の需要の中身は大きく変わるのは確実です。テレビなど家電製品、自動車は鉄鋼製品の主力でしたが、スマホなどで使われる素材はさまざまな高機能に対応できるものです。高炉から生み出した鋼材が圧延工程を経て消費財に姿を変える工程はすでに歴史になろうとしています。多種多様な要望に応えられる鉄鋼品、新素材を生み出せるかどうか。これまで以上に新しい技術開発と生産体制が鉄鋼メーカーに求められています。電炉転換は高炉メーカーも意識を明確に変える。その象徴に過ぎません。しかし、JFEがその第一歩を踏み出しことは評価したいです。

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