環境農家という文字に軽い衝撃を覚えました。これまで何度も目にしていてもおかしくないはずです。にもかかわらず、あるテレビのドキュメンタリー番組で登場した人物が「環境農家」のタイトルで紹介された時、意表を突かれた思いでした。
漢字4文字の重みを痛感
日本語の強さを改めて痛感しました。たった4文字で本人の決意が理解できます。
長年、地球環境問題の切り口から経済や企業経営について記事を書いたり、編集してきました。環境問題は世界的なテーマとして欧米を中心に各国・地域で議論されることもあって、どうしても英語やカタカナで端的に表現され、議論されてきました。日本の環境問題の語り口で英語やカタカナが増えるのも、考え方や取り組む姿勢などが海外の論調に影響を受け、移植されているからでしょう。
英語とカタカナは背中を押されて向き合う印象
なんとなく背中から押されて環境と対面している印象が拭えません。この思いを否定できないだけに、ESGやSDGsのアルファベッドばかり並ぶ言葉の羅列には正直、あまり好きではありません。日本人にとって母国語で表現するのが最も直接的に心に刺さるはずです。ところが、現実は英語とカタカナが溢れています。例えば経団連が公表したインパクト指標の活用を促す報告書を読んでみてください。日本語で書かれていますが、大事な用語は英語を由来したものが多く、それなりの英語力がなければ理解できません。
もともと英語の頭文字やカタカナで語ることに疑問を抱いていたこともあります。新人記者のころ、スーパーなどを取材すると、お会いする人のほとんどの場合、差し出される名刺に「マーチャンダイザー」「プロダクトマネージャー」「アシスタント・・・・」など片仮名ばかりの役職が表記されています。英語は多少理解できますが、どんな仕事をしているのかさっぱりわかりません。先輩記者に「なぜ片仮名の名刺ばかりなのか」とたずねると、「業界のレベルが低いから、職責を日本語に翻訳できないのだ」とかなり辛口の説明でした。
英語には日本の常識に囚われない思いを込める場合も
環境問題の取り組みはとても重要です。世界的なテーマですから、英語などの表現が多用されるのは理解できます。自身のサイト名で「Eco*Ten」「From to ZERO」と使っている理由も、日本の常識や枠組みに縛られない自由な発想で目の前の出来事、あるいは近未来を考えたいとの思いを込めているからです。ただ、現実離れした視点や批判を展開していると思われる場合もあるはずです。だからこそ、日本語を使って環境問題と向き合い、議論する場面を増やす必要があります。
「環境農家」という言葉をネット検索すると、写真家・切り絵作家の今森光彦さんが著した「光の田園物語」でサブタイトルとして「環境の農家への道」を添えています。日々の生活を通じて里山など自然の維持と再生に取り組みながら、目にする樹木や花、虫の生き様などを楽しんでいる様子を写真と簡潔な文章で鮮やかに再現しています。
環境への取り組む姿勢が自らの目線、足元から表現されていますから、読者に対する訴求力はとても力強い。新聞やテレビ、ネットでよく目にするESGやSDGsの文字に比べてどっしりとした重みを覚えます。農業は天候や災害、病虫害などの影響を受けながら、目標とした収穫力と品質を達成しなければ事業として成り立ちません。土壌に肥料を与え、ひどい病虫害に襲われた時には薬剤も散布しなければいけません。台風や大雨、地震に襲われた場合は多くの努力が雲散霧消する恐れもあります。
環境農家への道は多くの努力と多難を意味するはず
「環境農家への道」という言葉には、「多くの努力と多難の末にたどり着く遠い目標である」との意味が込められていると個人的には受け止めています。それだけに漢字4文字の重みを手のひらに実感します。
ESGやSDGsなどの言葉が軽いわけではありません。むしろそれぞれの母国語の壁を乗り越えて世界の環境問題の共通言語として流布される意義は限りなく大きいのです。ただ、日本語と同様にその趣旨を私たちが理解し、尊重しているかどうか。まだまだ不足していると実感します。
カーボンニュートラルへの関心の薄さはカタカナだから?
日本がカーボンニュートラルに対する関心が薄いと言われることがあります。日本語には直接的な表現を使うと乱暴に受け止められ、間接的、あるいは比喩を使って表現するのが美徳と評価します。ところが、英語の頭文字やカタカナを使うことが間接的に思いを伝える美徳と勘違いしている向きがあります。マーチャンダイザーはその典型例です。商品企画担当が本意なのでしょうが、日本語の役職とは違う格上のような印象を与えるのが目的としか思えない場合もありました。
環境についても同じ目的があったら、とても残念です。ESG、SDGsと聞いても「今の時代はそう言わなきゃね」と聞き流す軽さが添えられているのではないかと心配です。
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