Eco*Ten

スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

 スズキをEco*Tenします。

 ダイハツ工業と肩を並べる軽自動車のトップメーカーであるとともに、インドなど途上国へ積極的に進出し、高いシェアを握ります。欧米や中国などを主戦場とするトヨタ自動車や日産自動車、ホンダと違い、同じ自動車メーカーでありながら、独自の世界戦略を進め、その差別化戦略は成功しています。

環境経営ではキーエンスと同じ色合い

 日本の企業の中で思い浮かべるのは、キーエンスです。経営戦略のベクトルは全く異なりますが、自身の持ち味を最大限に発揮する独自の立ち位置をしっかりと見極めて、しっかりと稼ぐ。企業経営の基軸は常にブレない。成功する企業の鉄則を体現する企業群のひとつです。

 環境経営についても同様の印象です。企業経営、事業の個性では他を圧倒し、世界でもユニークなメーカーとして評価され、経営の教科書に掲載される。ところが、気候変動など環境については先駆的な取り組みで目立つことはなく、他社より出遅れない程度で進めていく。

 経営の発想が世界のライバル企業と競い合いながら、他が真似できない経営戦略を堅守して突き進むことに置かれているため、環境経営への優先順位はどうしても後回しになってしまう。やはりスズキとキーエンスには同じ匂い、同じ色を覚えます。

100年に一度の変革期にどう対応するのか

 しかし、自動車産業は今、「100年に一度の変革期」が合言葉。気候変動を招くCO2などの温暖化ガスを排出する自動車は、自らの成功を否定し、変革に挑まなければいけません。

 その一つの答としてカーボンニュートラルに向けて電気自動車(EV)の開発を加速しています。ホンダは2040年までにエンジン車をゼロ、EVなどCO2を排出しない車にすべて切り替えると宣言しています。EVの技術開発で後れを取るスズキにとって、エンジン車ゼロはもちろん、海外市場の主力である途上国の現況を考えると、ホンダとは違ったEV戦略が求められます。

トヨタと組み、独自のEV戦略

 EVの技術開発についてはトヨタ自動車と資本提携してハイブリッドや電気自動車の技術を取り込んでいます。2022年7月にはトヨタが主導して日野自動車、いすゞと設立した会社「CJPT」にダイハツと共に参加し、2023年中に軽商用車のEVを発売する体制を整えました。

  海外事業地域でのEV、カーボンニュートラルも欧米や中国を主力市場とするトヨタや日産自動車、ホンダと一線を画します。スズキが海外現地生産しているインド、ハンガリーなどは電気自動車を発売しても、発電・充電設備など産業インフラが追いつかない状況です。市場に投入しても、EVが立ち往生するのが見えています。インドなど政府がこれから具体化する環境対策の進捗度合いに合わせて、EVの投入、カーボンニュートラルの実践を深化させていくしかありません。

 自動車業界の中でスズキのEco*Ten度を計ると、技術力や話題性が豊富なトヨタや日産自動車に比べて埋没するかもしれません。裏返せばスズキのEco*Tenは将来の伸び代でいっぱいです。カーボンニュートラルに挑戦した結果、会社経営がおかしくなってしまっては、元も子もありません。多くの企業が直面している参考としてスズキは良い例になるはずです。

 Eco*Tenはスズキが2023年1月26日、「2030年度に向けた成長戦略」を参考に評点しました

 戦略の詳細はこちらのアドレスから参照ください。

https://www.suzuki.co.jp/ir/library/forinvestor/pdf/bsgs_fy2030.pdf

Eco*Tenは5項目で構成、それぞれ2点満点。合計10点が満点です。今回は第2項目まで。

①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。1・0点

 スズキのハンディキャップは、自動車メーカーとしての経営規模です。トヨタは売上高が31兆円、営業利益が3兆円近くであるのに対し、スズキは売上高が4兆円前後、営業利益は2000〜4000億円。すべてで1桁違います。当然、投資余力に大きな差が生まれます。カーボンニュートラルへの対応をみても、トヨタはハイブリッド、水素を利用した燃料電池、EVなどフルメニューで技術開発に取り組んでいますが、スズキはトヨタとの提携を手掛かりにハイブリッド、EVを取り込んでいます。出遅れは否めません。

 その差は工場など生産体制でも現れます。スズキは軽を主力とした自動車メーカー。価格は100万円台がベースになりますから、1台あたりの利益も違います。スズキの工場は生産体制の合理化、無理無駄の削減などでトヨタを上回りますが、それはカーボンニュートラル対応の取り組みの遅れを意味します。CO2削減、太陽光など再生可能エネルギーなど設備投資は、当初コスト増として跳ね返ってきます。1円単位で生産コストを切り詰めるのが真骨頂であるスズキにとって、なかなか選択できる投資ではありません。

 先を見透す力があっても、どう実行していくかを具体的に進める段階で二の足を踏むことになります。日本の企業として平均的な取り組みとして評価はできますが、先駆ではありません。評価は平均点に収まります。

②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。1・0点

 構想する力も状況は同じ。経営企画の段階で議論になったとしても、構想を描き始め、経営指標と照らし合わせると構想はなんとなく不透明になってしまいます。トヨタグループなどと組んで次世代の燃料研究に取り組むなど体制は整っていますが、これからの段階に入ったレベルです。独自の経営判断で思い切った将来戦略を打てないところが課題です。

 もともと構想を描いて満足する会社ではありません。構想に基づいて実践し、構想を上回る成果を獲得するのがスズキの強さです。成果のめどがつかない構想をスズキから期待することはできないです。半面、構想として発表したら、成果が見込めることです。真面目な会社です。

 Eco*Tenの第3項目以降は次回へ。

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