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ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

 半導体の精密加工メーカーのディスコをEco*Tenしてみます。

 創業は第二次世界大戦前の1937年。砥石の技術をもとに事業化しました。呉市は日本帝国海軍の本拠地で、戦艦大和を建造した造船所が今も健在です。余談ですが、大和を建造した大型機械が元気に動きているのを見た時は、日本の製造業の凄みに感動しました。呉周辺には軍事関連関連産業が集まり、砥石の技術は大砲などの精度を左右するといわれたそうです。ただ、創業当時は後発だったこともあって同業他社との競争に勝てず、呉で磨き上げた研磨技術を持って本社を東京に移したと沿革史で説明します。

 それが幸いします。戦後、電力計メーカーの受注をきっっかけに精密加工の世界へ。「高度なKiru ・Kezuru ・Migaku 技術」を掲げ、半導体など最先端の電子部品産業を支えるメーカーに転身することに成功しました。沿革の詳細を知りたい方は次のアドレスを参照ください。時系列で事実を並べる年表のほかに「こぼれ話」のコラムを加え、読んでいて楽しいですよ。

https://www.disco.co.jp/jp/corporate/history/index.html

 業績はすごいです。ディスコは2022年3月期決算で売上高が38・8%増の2537億円、営業利益は72・3%増の915億円、純利益は69・4%増の662億円。営業利益率は36・1%。純利益率は26・1%。高収益企業で高い注目度を集めるキーエンスも驚く数字が並びます。半導体の世界的な需要拡大を反映し、伸び率はちょっと半端ないです。半導体不足の現況を考慮すれば、高収益の勢いは止まりそうもないです。

決算説明会の資料はこちらから。https://www.disco.co.jp/jp/ir/library/presentation.html

 この強さの背景に高い技術力があるのは当然ですが、それよりも従業員のやる気をいかに高め、維持するかに注力していることを見逃してしまったら、ホントもったいない。開発力、生産力を拡充するため、従業員教育に力を入れる企業は多く、ディスコも数多ある事例の一つに過ぎませんが、頭抜けているのは常識に囚われずに社内改革に取り組み、楽しんでいることです。

 典型例は従業員満足志向(ESO、Employee Satisfaction Oriented)。日本企業は職場で先輩から後輩へ伝授するOJTが一般的ですが、ディスコはいわゆる「見える化」に努め、だれもが納得して習得できる制度を設計しました。よく知られるのが「個人別管理会計(Will会計)」です。2003年からディスコでしか通用しない管理会計として導入し、経理でよくわ使われる固定費や変動費以外に社内通貨ともえいるWillを”意志費”として計上。この通貨をやり取りする過程を通じて従業員が考案した新しい挑戦、改革を既存の社内組織に注入して、会社全体の柔軟性と新陳代謝を維持しています。とてもユニークです。

 以上を念頭にEco*Tenを項目別に評点しました。

①透視する力;2点

 1項目の満点は2点ですから、満点評価です。ちょっと甘いかなと思いますが、これだけの高収益力を誇る企業でありながら、ESG、SDGsの視点から自社の強さを刷新し続ける勇気を買います。自社の近未来をどう捉え、どのような対応するかを重視し、高収益、大企業といったブランドにしがみつかない。それは自らの経営を透視する力を持っている証です。

②構想する力;1・5点

 電子機器の精密部品を生産する基礎技術として自らの活路を見い出し、切り拓いています。この強さを堅持しながら、環境経営としての指標をまんべんなく身の丈に設定して、実現できる計画をまとめ上げています。これだけの高収益を上げる経営がみえてくると、どうしても他業種の大企業と遜色ない計画を作成しがちです。「Kiru ・Kezuru ・Migaku」をしっかりと踏み締めて、違った舞台に躍り出ようとしません。高成長、高収益ともてはやされると勘違いする経営者が現れますが、今のところは心配なさそうです。 

③実現できる力1・5点

このポイントはWillを使った改革制度の設定で測ることができると考えます。社内制度のみならず外部の評価にもしっかりと耐えうる結果を挙げ、企業評価を得ています。人事改革や環境経営は花火のように派手に打ち上げるのは簡単ですが、計画通りに夜空に設計通りに花火を描くのはとても難しいものです。パート社員らを交えた従業員の満足度調査の結果をもとに経営陣が議論し、フィードバックするほか、外部のコンサルタントの論文でも結果を精査されています。なによりも、スタート当初、私が調査設計した「働きがいのある会社」調査で着実にランキング上位を守っているのは評価できます。かつて広島工場で働くパートさんらと雑談したことがありますが、ほんと仕事の改革を楽しそうに話していました。品質管理運動の域を超えています。誰が面白いアイアデアを捻り出し、成功させるかを競っています。パートでありながら、正社員に劣らぬ忠誠心を覚えました。これは生産現場が強い製造業にできないことはありません。

④変革できる力;1・5点

 創業以来の「Kiru ・Kezuru ・Migaku」を守りながら、事業は半導体関連などを軸に幅を広げています。これまでの事業の成功体験に安住せず、外部の声も取り込みながら、直近の社会テーマにも答えられる取り組みがみられます。自ら築いたブランドに安住せず、新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。

⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;1・5点

 繰り返しになりますが、事業の主軸は「Kiru ・Kezuru ・Migaku」に据えています。あえて新しい挑戦をせず、創業以来の技術を磨き上げるのが日本の製造業、あるいは名門企業が歩んできた道です。しかし、Will会計など他の業種や会社が考えもしない新しい制度改革を躊躇せずに実行します。きっと米国シリコンバレーでもそうある例ではないでしょう。

 もう30年以上も前にシリコンバレーに行って当時のバイオテクノロジーベンチャーを取材したことあります。創業者の若い社長は「このオフィスにいる社員で自分が米国人だから、アジア人だから、あるいは黒人だから、国籍や人種を考えながら仕事している人は何人いるだろう」と私に話しかけるとともに、周辺の社員に呼びかけていました。もちろん、建前と本音は違うのは承知しています。しかし、全員、「この会社のプロであることだけしか意識しない」と笑っていました。

 仕事のプロ集団によって戦前から85年間続く企業が確実に新陳代謝していく。現代のシリコンバレーのスタートアップ企業にも負けない活力と挑戦力を期待したいです。

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