Eco*Ten

デンソーEco*Ten(上) 実力は最強クラスでもトヨタへの忖度か、最前列に登場せず、残念!

 デンソーのEco*Tenに挑みます。

 長年、製造業を取材してきた経験からいって、デンソーは日本最強クラスの実力を持ち合わせています。トヨタ自動車が率いる自動車部品系列グループの最前列に並ぶ実力のみならず、幅広い技術力はいずれも最先端の水準。世界最大の半導体受託生産会社のTSMCが熊本県で建設している工場にソニーとともに出資していることで十分に理解できると思います。

半導体など幅広い技術分野で最先端を走る

 会社名のデンソーは日本電装から由来しているぐらいですから自動車の電機関連はもちろん、半導体・情報処理、エンジンの燃焼に使う点火プラグはじめセラミックなど材料分野にも優れた技術を持ち、製造業のオンパレードを楽しめる会社です。

 といっても、エアコンから戦車まで手掛ける三菱重工業などと比べて異なるのは、自動車を通じて消費者目線を忘れていないこと。車内の空調を制御するエアコンはじめ電装品の使い勝手、使用頻度を想定した耐久性、クルマ全体の進化を予想した研究開発などが絶えず開発・生産体制を鍛え上げます。それぞれの事業拡大に目を奪われると総花的になる恐れもありますが、自動車・移動体を軸に枠を固めて、無駄な拡散を防いでいるのが巧みです。

トヨタを世界一にした原動力は系列部品

 その実力を実証する例がトヨタ自動車。トヨタが世界トップの座に上り詰めた原動力は、系列部品メーカーの実力があったからこそ。なにしろ自動車は3万〜5万点といわれる部品の集合体です。部品の精度、耐久性に信頼がなければ、部品を組み上げた自動車は故障し、最悪の場合はドライバーや乗客が死傷する不幸な事態を招きます。

 しかも、定期的なモデルチェンジを繰り返す新車開発は常に最新技術の実用化を迫ります。同じものを生産し続けて精度や信頼性を維持するわけにはいきません。最新の技術を取り込みながら、これまでと変わらない品質水準を堅持する。新車開発を通じて技術・生産を洗練させ、製造業としての強さを鍛える好循環を実現しなければ部品メーカーとして生き残れません。

 新たな革新の波も押し寄せています。自動車産業は気候変動に伴うカーボニュートラルという大きな波を乗り越えるため、エンジン車やハイブリッド車から電気自動車(EV)、水素を利用した燃料電池車へ転身する流れが加速しています。トヨタはエンジンもハイブリッドもEVも燃料電池もすべて取り組む「全方位開発」を掲げていますが、EVを主軸にした開発に力点を置かざるを得ません。

EVはイノベーションのチャンス

 デンソーにとって幸運なのは、事業をイノベーションするチャンスであることです。内燃機関エンジンを搭載するクルマは減っていくことは、エンジン関連の部品が消失するわけですから自動車産業にとって大きな打撃です。しかし、デンソーはカーエアコンはじめクルマの電機関連の技術と経験を豊富に抱えています。

 EVはモーターとバッテリーが搭載すれば走りますが、走行性能や安全性を確保するには従来の自動車部品のノウハウが必要です。デンソーと同じドイツの電装品メーカーのZFはEV関連のパワートレインで強みを発揮しており、独自にEVを開発し、投入する計画を持っているようです。デンソーもやろうと思えば、EVを開発できる実力を兼ね備えていると推察します。

 カーボンニュートラルの波は生産体制にも押し寄せます。日本の生産工程の省エネ、省廃棄物はすでに進んでいますが、工場内から発生するCO2の削減、あるいはCO2そのものをゼロにする試みは始まったばかりです。

工場のカーボンニュートラル・モデルを提示

 自動車産業はトヨタなど完成車メーカーを頂点に系列部品、下請けと裾野が広がる巨大な産業ピラミッドを形成しています。トヨタだけみても、下請け企業は4万社を超えます。幸いにもトヨタグループは水素の活用に熱心で、技術も経験も蓄積しています。さらに愛知県には自動車のみならず機械、セラミックなど日本を代表する製造業が集積、生産設備の進化は他の地域を圧倒しています。デンソーがカーボンニュートラル時代に向けたモデル工場を建設し、新しい製造業の姿を示すぐらいの気概を期待しても良いかと思います。

 2023年1月下旬、東京ビッグサイトで開催した「第1回 グリーンファクトリーEXPO 」を訪れました。デンソーは、「カーボンニュートラル・ソリューションズ」というテーマで近未来のモデル工場を展示していました。模型を使い、CO2の回収・処理、太陽光、水素などCO2を排出しないエネルギー源の使用、EVなどを活用した充電設備を組み合わせ、わかりやすくレイアウトやイメージを説明していました。素晴らしい。すでに実証試験を開始しており、そう遠くない将来にデンソーが実現するはずです。

  無理を承知であえて提案するなら、デンソーの実力なら実際の工場で実用化できたものも多いはずです。日本の製造業の先駆として試行錯誤を乗り越えて、カーボンニュートラルのモデル工場を現実のものとして提示して欲しかった。実現しない背景には系列部品メーカーの宿命があるのか。系列グループの頂点に立つトヨタより先んじることに躊躇するのか、許されないのか。デンソー唯一の弱点といって良いでしょう。

 優秀な技術と斬新な発想を持ちながら、対外的に発信することができない。EVメーカーのテスラを創業、大成功させたイーロン・マスクのパフォーマンス・スタイルと真逆の姿勢を堅持しなければいけない。日本の製造業が世界最先端の技術力を持ちながらも、革新する持続力を失い、新陳代謝を生み出すサイクルを失った主因です。

系列の呪縛と殻を破って未来の成長へ

 もしデンソーがトヨタ系列トップとしての自覚に縛られ、自ら制約を課して現状を甘受せざる得ないとしたら、とても残念。今の日本企業の限界でしょうか。

 Eco*Tenを開始します。デンソーは2022年12月15日に「企業価値向上戦略」「2035年の世界に向けた技術開発」を発表しています。この資料を参考にEco*Tenします。

「デンソーの企業価値向上戦略」は、こちらのアドレスから参照できます。

https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/about-us/investors/business-briefing/2022-dialogday/2022-growth-strategies_jp.pdf?rev=fbe13a254b364ae4b41ccc42ee5da586

「2035年の世界に向けた技術開発」はこちらから

https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/about-us/investors/business-briefing/2022-dialogday/2022-technology_jp-rev2.pdf?rev=7978725f5ff6473aa89003984b421fb 

 Eco*Tenは5項目で各2点、合計10点が満点評価となります。

①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。見透す能力を評価します。1・8点

 見透す力は十分。世界の自動車技術をリードするドイツのロバート・ボッシュと並ぶデンソーです。近未来の自動車がどう進化するかを見極めています。部品メーカーは自動車メーカーが求める技術と品質をいち早く実現するのが宿命です。実現できなければ、見捨てられる運命です。カーボンニュートラルを実現しながら、自動車の殻を破ってどのように事業を拡大するのかに注目したい。

②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。1・8点

上記の検索アドレスをクリックして企業価値向上戦略を参照ください。トヨタの部品メーカーらしく少ないページ数に緻密に考え方と実行計画を説明しています。トヨタはA4一枚で説明するのが流儀と聞きましたが、納得しました。目の前の状況を整理整頓し、具体的な設計図面を描く。得意中の得意ですから。

Eco*Tenは残り3項目あります。そちらは次回へ

 

 

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