牛や羊のゲップに課税するそうです。
生きた家畜の課税は世界で初めて
ニュージーランドのアーダン首相は10月11日、牛や羊などの家畜のゲップによって排出されるメタンガスなどに課税する方針を明らかにしました。生きている家畜を対象に課税するのは世界で初めてだそうです。メタンガスは地球温暖化ガスのひとつとされますが、世界最大の乳製品輸出国であるニュージラーンドにとって畜産業は国の基幹産業です。にもかかわらず、課税案が浮上するところがニュージーランドの真骨頂。貿易自由化や規制緩和などを世界に先駆けて実現し、世界主要国が追随するパターンが繰り返されてきました。「家畜のゲップ課税はありえない」と笑って見逃したら、後悔しますよ。
ゲップに対する課税の税率など詳細は2022年末までに決まる予定です。算定する根拠は農家ごとに家畜の種類や飼育頭数、肥料などを参考に産出する考えです。ゲップによる税収は、家畜から排出される温暖化ガスの排出削減に関する研究開発のほか、排出削減に取り組む農家への奨励金として支給する計画です。
人口に比べ牛は2倍、羊は5倍も
ニュージーランドは人口500万人ほどですが、乳牛、肉牛を合わせた飼育頭数は1000万頭を超え、羊はその倍以上の2600万頭を数えます。製造業がさほど発展していないため、ニュージーランド全体で排出されるメタンガスなど温暖化ガスの過半は農場から排出されています。
2050年のカーボンゼロ達成を至上命題と掲げるニュージラーンド政府のアーダン首相は、家畜から排出される温暖化ガスを2030年までに10%減、2050年までに47%減と大幅に削減する計画です。「ニュージーランドが世界で初めて農業分野での温暖化ガス排出に取り組めば、世界市場でさらに有利な輸出競争力をもたらす」と首相は話します。
乳製品の輸出競争力の強化を期待
オコーナー農相は「頻発する干ばつや洪水を経験する農家にとって温暖化ガスの排出は環境にも自国経済にも良い結果をもたらす」とみています。
ニュージーランドの農業団体は反発しています。新たな課税が加われば乳製品の生産コストを押し上げ、輸出競争力を奪うことになるからです。隣国のオーストラリアも困惑しています。エネルギーなど資源と並んで農産物の輸出が基幹産業です。農業関連のメディアは、「オーストラリアはこの課税の行方に注意すべきだ」と警鐘を鳴らしています。
オーストラリアの有力紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」によると、温暖化ガス削減を目的にした課税案は2003年にも提案され、失敗に終わっています。ニュージーランドのアーダン首相は最近の世論調査で来年の総選挙での勝利が危ぶまれており、今回のゲップ課税も含めて農業団体とどう折り合いつけるかが注目されるそうです。
ゲップ課税が実現するかどうかはまだわかりません。しかし、ニュージーランドの取り組みを無視する理由にはなりません。ニュージーランドは人口が少なく、南太平洋の島国ですが、世界の枠組みを再構築する挑戦の先駆けとして知られています。日銀も含めて世界の中央銀行がインフレターゲットとして利用している消費者物価2%上昇はニュージーランドの中央銀行が初めて実践しました。
貿易の自由化もそうです。輸出競争力が強い乳製品を伸ばす目的でオーストラリアとともに推進し、これが現在のAPEC、TPP(太平洋貿易協定)に発展しています。環境問題も日本では過激な行動で知られるグリーンピースが拠点を置くなど世界的に注目を浴びています。
「小国だから実験できる」との批判が根強くあります。しかし、結果的には欧米各国が躊躇する政策を世界で最初に手掛け、その成果を世界に発信する形になっています。アーダン首相は2025年にゲップ課税を導入したい考えです。さて、結末はどうなるのでしょうか。
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