Eco*Ten

エフピコ Eco*Ten8・1点 プラスチック製品の不安を信頼へ、自社製品の価値を高めるリサイクル

 エフピコが経営戦略で貫いているのは、常に消費者の厳しい視線にさらされていることを忘れるな。手軽に使える割安な容器といった生産者の論理を振り回しても理解されず、反発を買うだけ。その経営判断に腹を括ったのは1981年。同業者の反発を買いながらも、白色が当たり前だった食器トレーにカラートレーを導入した時とみています。

 カラートレーは多品種を生産するので、コスト高を招きます。大量生産によるコスト競争力で勝負していた食器トレー業界に波紋が広がります。予想に反して割高なカラートレーは食品売り場の展示に工夫を加えたいスーパーに受け入れられ、エフピコをシェアトップに押し上げる大ヒット商品となります。業界1位の座がみえれば、今度はプラスチック製容器に関する処理や批判を矢面に浴びる立場に変わります。実際、不買運動やゴミ処理問題の批判を浴びます。

 打開策は自ら手掛けるリサイクル事業。食品トレーのリサイクルをスーパーに提案したものの、当初は使用済み食品トレーが集まらず、赤字に苦しみましたが、回収とリサイクルが軌道に乗るまで耐え続けたそうです。結果的には食品トレーのリサイクルはエフピコという企業ブランドが高め、それが経営指標の改善となって表れ、さらにリサイクル拡大の勢いを増す力になります。

 エフピコ方式は1990年に誕生したのも、窮余の一策だったかもしれません。企業の継続性そのものを問われたからです。ところが今の言葉言えば、サスティナビリティー、ESG、SDGsに繋がります。

 エフピコはリサイクルで生まれる大量の再生プラスチックを素材に生産した容器を「エコトレー」と呼び、日本環境協会からエコマーク商品としての認定を受けます。プラスチックゴミを生産しているとの批判は、エコマークをつけることで環境にやさしい商品に替わるのです。ちなみに「エコトレー」は再生プラスチックが全体の50%以上を含むものを指します。

 トレー続きペットボトルにも手を広げます。ペットのリサイクル工場を買収して使用済みPETボトルを再商品化する「ボトルtoトレー」がスタート。当初赤字だったリサイクルはエフピコを支える高収益事業に変貌してしまったのです。

 エフピコの事業はリサイクルを軸に成長路線を駆け上がります。プラスチック製品に対する消費者の厳しい目は増すばかり。しかし、この批判に答える事業展開と成果を継続することで、批判を信頼に移し替え、企業評価にも貢献します。大気汚染や温暖化ガスの元凶といわれた排ガスを排出していた自動車が、ハイブリッド車に生まれ変わった途端、「環境に優しいクルマ」に生まれ変わった風景と同じです。

③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。それとも絵に描いた餅か。=2点

④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。=1・8点

⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。=1・8点

 エフピコで最も評価したいのは情報公開の姿勢です。エフピコ方式と呼ばれるリサイクルシステムを確立して評価を集めたとはいえ、食器トレーを使用する消費者に知られなければ海洋汚染に象徴されるプラスチック製品の批判は収まりません。トレーの回収ボックスをスーパーなど店頭に配置するのも、消費者に持参してもらう手間を加えることで「食器トレーは回収され再生されている」の実感を知ってもらうチャンスです。

 その実感をより深い理解に進めるため、イベントやホームページなど多くの機会を増やし、プラスチック製品の利便性、環境破壊を防ぐための努力と事業を訴えています。一度、ホームページをご覧ください。とてもきめ細かく説明しています。説明資料が多いので、すべてを読むのはひと苦労ですが、「なんでも質問してください」との姿勢が明確に伝わってきます。

2022年のエフピコレポート

https://www.fpco.jp/dcms_media/other/FPCO_Report_2022.pdf

 ESG・SDGsの実践も手ぬかりありません。一例として障害者雇用をみてみます。2007年、雇用契約を結ぶ就労継続支援A型事業所を民間営利法人として初めて設立しました。現在もそうですが、大半は雇用契約を結ばないB型事業所が占めており、障害者雇用の改善を受けて最近になってA型が増えているのが現状です。障害者雇用率は12・6%。全国の民間企業は2・3%ですから、一朝一夕で積み重ねた数字ではないことがわかります。

 エフピコは社会の視線を先取りする姿勢が堅持されている限り、その強さが減速することはないでしょう。リサイクルで事業基盤を固め、そこで甘んじずにむしろ批判を買って出るかのような情報公開を続け、そこから得られる経営改革のヒントを成果としてものにする。このリサイクルが続いている限り、プラスチック製品の存在価値が根本から失われることはないはずです。

 企業活動を続ければ、さまざまな批判や落とし穴に直面します。そのネガティブな情報をどう経営にプラスするのか、エフピコがその一例です。

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