Eco*Ten

日揮 Eco*Ten (上)エンジニアリングの王者は脱炭素、気候変動を飲み込み、変革を続ける

 エンジニアリング会社の日揮をEco*Tenします。

 環境経営の評価が難しい企業のひとつです。なにしろ石油・ガスなどエネルギーの資源開発に深く関わっているだけに、環境破壊・汚染はもちろん、CO2など温暖化ガス排出に対する批判は日常茶飯事。多くの批判などにどう答えるのか。万が一にも環境破壊・汚染を発生させてしまえば、会社の存続は危ぶまれます。環境問題に対する取り組み、研究は事業範囲のひとつのようなものでしょう。環境対策や事業計画を発表する際は、万全の構えを取るのは当然。環境経営のマイナス評価を受ける部分は極力、省いているはずですから。

 まず日揮とは?エンジニアリング会社として日本最大手、世界でもベクテルなど欧米のトップクラスに続く有数の実績を誇ります。プラントを製造した国は80か国を超えるそうです。事業内容はあまりにも広く、簡単に要約できませんが、石油・ガスなど経済活動や日常生活に必要なエネルギーを原油の一滴から精製、製品に仕上げる工場群のコンビナートを設計・構築するといえば良いでしょうか。保有技術や事業計画のメニューが豊富で、お金さえあれば何を頼んでも、やってくれそうな気がします。

 コンビーナートそのものは誰もが魅力されます。一見、工場の寄せ集めで無機質ですが原料がどんどん化学反応する工程を丸裸に見せつけられ、処理する施設から発せられるオーラが半端じゃない。最近、日本各地で夜間のコンビーナートが観光名所になっているのもうなずけます。

 高度成長期の昭和の遺物のように捉える向きもありますが、原料から製品化に至る誕生の過程が感覚的に見える気がするせいか、コンビナート全体から生命力や躍動感を覚えます。コンビナート建設などの事業計画は環境問題と事業収益との間合い、言い換えれば時代の変化を先読みしながら、現時点で環境と事業のバランスが釣り合う最適解を探り、遂行する内容に仕上がります。

日揮の事業内容、環境に対する考え方、経営指標などはこちらから参照できます。

https://www.jgc.com/jp/ir/ir-library/annual-reports/pdf/JGCReport2022_j.pdf

 Eco*Tenの目線で経営計画全般や環境対策を読んでいると、他の企業と違った余裕を感じます。次に求められる環境やESGなどの取り組みをきっちりと押さえながらも、独り飛び出して先行するようなことはしない。

 相撲に例えれば横綱ですか。相手の次の動きを読みながら、あえて隙を見せて受け身で構え、足踏みをしてみせる。かつての大鵬のように気が付いたら、土俵を割っていた。もっとも、日揮は中東地域のビジネスが多いので、横綱よりもKing、王者の肩書きが似合うのでしょうか。

 しかし、王者の存在感に目を奪われているわけにはいきません。あの魅力的なコンビナートは技術力、資金力だけで実現する世界ではないのです。資源国の政治、経済の浮沈に関わるビジネスだけに、様々な分野に深い人的コネクションが不可欠です。石油などの資源国は途上国がほとんど。

 エンジニアリングの世界ランキングをみて、その裏舞台を察してください。トップは中国の資源開発企業。続いてベクテルなど欧米が続きます。ロシア、中央アジア、アフリカ、北米など資源開発はあまり表舞台に登場しませんが、何冊のスペクタル小説を読むようで面白いですよ。その背景には政治・経済が絡み合う巨額投資があるからです。

 日揮もサウジアラビアを筆頭に中東やアフリカなど資源国と深いコネクションを構築しているのも当然です。日本の企業の中でも、欧米の多国籍企業と匹敵する経営を実践しているのではないでしょうか。

 事業範囲は石油・ガスだけではありません。日揮の企業イメージは一般に化石燃料を原料とするコンビナート建設で稼ぎ、地球温暖化を加速させる悪役を演じていると思われがちですが、実はカーボンニュートラルに必要な技術も多く擁しています。

 国土の大半を砂漠で水不足が恒常化している中東では真水化プロジェクトが拡大しているほか、脱炭素の切り札として期待されるアンモニア・水素などの精製事業も幅広く手を広げ、実績を重ねています。繰り返しになりますが、「やろうと思えばなんでもできる」会社なのかもしれません。ただし、赤字はいけません。

 環境経営の視点で産業や企業を眺めると、どうしても気候変動の起因となる温暖化ガスの排出をまず思い浮かべてしまいます。CO2を排出する功罪をここで議論する考えは全くありませんが、温暖化ガス排出が避けられない鉄鋼や電力などは対応力が求められるのは仕方がありません。

 日揮が鉄鋼や電力と違うのは、日揮などエンジニアリング会社はCO2を排出するプラント・コンビナートを建設するが仕事でしたが、これからはCO2を減量する工場群、あるいは排出しない生産工程を創造できるところです。その一例がアンモニアや水素の製造であり、中東など水不足に悩む地域での海水の真水化処理プラントです。

 脱炭素、カーボンニュートラルという目標に向かって生産工程を変えるだけでなく、ESGやSDGsのゴールに向かって地域を変える技術と人材、経験を蓄えている会社といえば格好良すぎですか。裏返せば、脱炭素を進めるうえで生産工程の変革などを検討する過程で工場の設計などを依頼するのは、実はCO2排出の象徴であるコンビナートを建設してきた日揮が選ばれる可能性もあるのです。エンジニアリング会社の懐の深さを教えてくれます。

 企業のホームページには、変革をキーワードに企業紹介しています。

 1928年の創業以来、日揮グループは常に自らを変革することで、持続的成長を実現してきました。この「変革」 を経て培われた強みは、現在独自の4つの「強み」となって独自のビジネスアプローチである「エンジニアリング・ アプローチ」を動かす原動力となっており、今後も当社グループの持続的な成長を牽引し続けます。

 まだまだ書き足りないのですが、今回はこの辺でEco*Tenに移ります。Eco*Ten5項目、各項目2点満点で構成します。満点は十店。今回はこのうち2項目だけの評点です。残る3項目は次回に。

①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。見透す能力を評価します。1・5点

 事業計画などから浮き彫りになる見透す力はさすがです。地球環境問題に直結する事業に携わっているわけですから、現状と近未来は生産現場などから直に伝わってきます。現在の問題点は何か、解決するためには何が必要か、そして事業収益と外部の批判を天秤にかけてどこまで達成すべきなのか。表現は不適切かもしれませんが、環境対策などはあえて達成すべき目標より手前で抑える「寸止め」すら感じます。

②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。1・5点

 透視する力が高いわけですから、どのように対応するべきかを構想する力はあります。なにしろプラント、エンジニアリングの会社です。構想し、実行するのが主力事業です。押さえる点は押さえ、見逃す点はあえて見逃す。こちらも寸止め感を覚えます。

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