Eco*Ten

政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

 岸田首相が原子力発電所の建設推進に舵を切りました。2011年の東日本大震災による福島第一原発事故は福島県を中心に甚大な被害を与えるとともに、原発推進の流れを止めました。国民から安全の徹底策を求める声は強く、その後も東京電力など原発を運転する事業会社の不祥事が加わり、与野党も含めて原発に対する見方は厳しいままです。

 この空気を一変させたのがロシアによるウクライナ侵攻。欧米や日本などの経済制裁を受けて、ロシアは石油、天然ガスの供給を絞り、世界のエネルギー需給は一気に緊張しました。エネルギー資源のほとんどを輸入に頼る日本はサハリンからの天然ガス調達のみならず、世界の資源マーケットの高騰に直撃されています。地球温暖化に対応する脱炭素対策も急務です。しかも、日本国内の電力事情は老朽化した火力発電所のスクラップ&ビルドが進まず、発電能力の不足が顕著になってきました。結局、原発が諸問題解決の切り札として再浮上する構図です。

 岸田首相は8月24日のグリーントランスフォーメーション(GX)実行会議で原子炉の新増設や建て替えを進める姿勢を鮮明にしました。太陽光など再生可能エネルギーと原子力はGXを進める上で不可欠との認識を示し、次世代革新炉の開発・建設、運転期間の延長を挙げ、「検討を加速してほしい」と指示しました。

 現時点は原発推進へ大転換する方針が示された段階で、結論は年末までかかる見通しです。不確定要因が多い中ですが、日本のエネルギー事情、そして安全保障戦略も踏まえてEco*Tenの視点で評価してみることにしました。5項目で採点し、各項目は2点満点。全項目は合わせて10点満点で評価付けします。

 誤解されたくないので簡単に自己紹介します。私は高校生の頃、青森県の六ヶ所村の開発問題の実情を友人を通じて知って以来、原発への関心を持ち続けています。新聞社に入ってからも原発銀座と呼ばれた北陸、福島原発第1・第2、北海道・泊などを取材、東京電力など電力・石油のエネルギー産業も主に取材した経験を持っています。もう40年近いです。北陸にいた頃、原発について議論する際、「人類の叡智を信じたい」と話したのを覚えています。今も信じたいです。しかし、目の前にある現実はかなり厳しいです。だからこそ、人類の叡智を絞り出して「正解」を見つけたいと考えています。

さてEco*Tenです。

第1項目 透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。

            1・0点

 近未来の日本のエネルギーをどう捉えているのか。岸田首相の発言を見ている限り、その覚悟はあまり感じられません。極めて目先のエネルギー事情を考慮して、方針の大転換を決断したようにみえます。地球温暖化対策でもあるカーボンニュートラル社会への移行は、近未来を透視するというよりは世界すべての人々が共有する現状認識です。太陽光や風力、原子力発電は二酸化炭素を排出しないエネルギー源をより身近に利用することは、今や常識として多くの人が理解しています。大きな壁がそびえ立つ現状を打破するため、過去の知識と議論を寄せ集めて「原発推進」の方針を打ち出したとしか思えません。

第2項目 構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。

             1・0点

 構想力が見当たりません。第1項目で説明した現状認識をもとに原発推進の方針を捻り出した印象です。原発推進に向けた具体的な計画は次世代の軽水炉、小型モジュール原発が加えられていますが、こちも長年指摘されてきた話題です。経済産業省がちょっと前にまとめたメモをもう一度、書き起こしたのかと推察します。原発の延命も盛り込まれました。現在は運転期間を原則40年としていますが、本当に最長60年まで延ばせるのかどうか。海外では原発の運転期間の延長は議論され、実行されています。

 しかし、福島第一原発事故が津波で電源停止に追い込まれた事実からわかるように、草創期の原発は設計思想が古く、メンテナンスも効率が悪い。原発の延命はコストも時間もかけずに電力需給を改善する妙手と思いますが、近い将来に原発事故を起こす可能性を打ち消すことができません。原子力安全規制委員会は現状を十分に把握して運転基準を設定しているのでしょうが、安全に完全はありません。見事な構想を描いたと評価する気はしません。

第3項目 実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。

              0・5点

 原発の再稼働はまだ難問が控えているとはいえ、原子力規制委員会によって道筋が敷かれています。それよりも新設、次世代炉の開発は再稼働のハードルと比べようもないほど高く厚い。新増設は用地取得済みもあるでしょうが、ゼロから開始するとなるといつ完成できるのでしょうか。原発立地はお金と時間を信じられないぐらい消耗します。今後の立地交渉は過去が参考にならないほど難しい用地取得と周辺自治体の合意、巨額の建設費などが待ち構え、ゴールはほとんど見えません。

 次世代炉はどうでしょうか。研究開発レベル、実証炉など研究開発の進捗度に差がありますが、海外の研究成果をそのまま日本に移植できないことは福島第一原発事故で実証済みです。地震や津波など欧米での想定では測れない災害にどの程度の耐性があるのか。検証する時間は10年間で足りるのでしょうか。  

 原発を建設する事業者はどうでしょうか。例えば東芝。世界最大の原発メーカーになろうとして脆くも夢破れ、会社の存続自体が危ういのが現状です。日本には日新製鋼や日立製作所など原発建設で優れた技術を持つメーカーが多いのですが、原発は壮大な部品点数を組み合わせ、多くの経験とノウハウで建設され、安全が確保されるものです。原発の事業部門、新規人材の採用などどれも現実は苦しんでいます。原発推進できる自信が見えてきますか。

第4項目 変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。

              0・5点

 これまでの3項目の評価を考え合わせれば、変革できる力があるのか見通すことはできません。ただ、東日本大震災で貴重な経験と教訓を得ています。あの震災で福島県浜通り地区のみなさんが受けた傷を思い出したら、かならず変革しなければいけません。

第5項目 ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。

             0・5点

 岸田首相の会見を見ている限り、ファーストペンギンの勇気を持ち合わせているかどうか。自己主張が得意な方ではないようですし、並外れた決断力を持ち合わせている方でもないようです。しかし、2011年以降、原発に対して慎重姿勢だった政府の方針を大転換することを決断しました。これから巻き起こる原発の再稼働、新増設、次世代炉の開発などの議論を通じて、新しい知見を探り、日本のエネルギーの未来に一つの答えを探ってくれる勇気に期待したいです。

 全体のEco*Tenは3・5点。10点満点ですから、ちょっと低すぎかもしれません。しかし、原発問題は日本のみならず世界のエネルギー安全保障に大きく関わるテーマです。日本は世界の中でも技術と経験でトップクラスの立場にあります。その日本がカーボンニュートラル社会への移行、ロシアのウクライナ進行によるエネルギー危機にどういう対応するのか、総合的な未来ビジョンをどう描くのか。いずれも世界に大きな影響を与えます。評点は低いですが、今後の加点を期待しています。5年後、10点満点の7点には到達してほしいです。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 地球温暖化はワイン産地を北へ、北へ 北海道のピノがうまい

  2. ニュージーランド 世界初の牛のげっぷ税を撤回 試行錯誤がエコを進化

  3. 三菱UFJ銀 顧客情報を違法に共有 窓口は厳守でも経営の本音は収益重視

  4. 最近、聞かないESG、SDGs もう当たり前?あるいは賞味期限切れ!? 

  5. 景観で国立市のマンションが解体するなら、明治神宮外苑も・・と誰もが

  6. 国のジェネリック普及 効能は先発薬と同じでも、供給力と信頼はまだ後発のまま

  7. パリ・シャンゼリゼは緑増やし、人が回帰する街に 神宮外苑前は緑の回廊から高層ビルの街へ

  8. 環境省 霞ヶ関の病に侵され、水俣の声が聞こえず Eco*Ten 零点 

  9. Wework、ビッグモーター、WECARS さて問題です、グッドカンパニーはどれ?

  10. 三井不動産「街と人の外苑」よりも「明治神宮の内苑」を最優先

  1. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  2. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  3. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

  4. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  5. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  6. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  7. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  8. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  9. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  10. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP