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ドイツが脱原発を微調整、欧州のエネルギー危機、脱炭素の本気度を揺さぶる

 ドイツ政府が脱原発政策を微調整しました。国内に残る原子力発電所を2022年末にすべて運転終了する予定でしたが、ロシアから調達する天然ガスの供給が先行き不安に陥ったため、運転終了を先延ばします。脱原発の先頭を走っていたドイツが微調整とはいえ、原発運転を維持することは欧州のエネルギー状況の厳しさを改めて浮き彫りにします。ロシアのウクライナ侵攻は長期化する恐れもあり、今冬のエネルギー状況次第では脱炭素に向けたエネルギーの多様化にも影響を与えます。

今冬の非常時に備えて原発運転の終了を先延ばし

 ドイツ国内の原子力発電所は2021年5月現在で6基ありました。2021年末に3基は運転を終了しており、残る3基も2022年末に運転を終える予定でした。ところがドイツ政府は9月5日、残る3基のうち2基は2023年4月まで稼働可能な状態を維持すると発表しました。ロシアから調達している天然ガスの供給が休止するなど先行きに不安が出ているため、暖房用として電力需要がピークを迎える冬に備え、原発2基の運転終了を先延ばししました。

 ドイツ政府は今冬の電力需給を予測し、現状でも乗り切れると判断しています。原発の運転終了の先延ばしは万が一の危機に備えたものです。運転を先延ばしする原発2基は23年4月末には終了し、原発ゼロをめざす政策に変更はないと説明しています。

1998年から脱原発政策

 ドイツは1998年、中道左派の「社会民主党(SPD)」と「緑の党」による連立政権が発足し、脱原子力政策に転換しました。エネルギー政策は脱原発を進める代わりに太陽光など再生可能エネルギーを拡大することが主軸となりました。ただ、再生可能エネルギーの活用は発電コストを押し上げたほか、需要不足を補う石炭火力発電所が増え、電気代の上昇とCO2排出量が増えるという二重苦に直面、メルケル政権時に原発の活用へ後戻りしたこともありました。

 2011年の東日本大震災による福島第一原発事故はメルケル首相を再び脱原発に差し戻します。当時、国内にあった17基は2022年末までに運転終了する予定で閉鎖されてきてました。一方、発電施設は再生可能エネルギーへ偏重しており、2030年まで電力の8割を賄う方針です。

EUはフランスが原発推進、脱原発のドイツと二分

 脱炭素に一丸となっている欧州は原発を巡って二分されます。脱原子力発電は謳うのはドイツ、オーストラリア、デンマーク、スペイン、ルクセンブルグの5カ国が中心。これに対し欧州連合(EU)でドイツと並ぶ有力国のフランスは原子力発電を主要産業と捉えており、国内の発電比率も原発が70%近くを占めています。EUは2022年に入って脱炭素を推進するため、再生可能エネルギーと並んで原発を位置づけ、投資を認める方針に動き、ドイツなど5カ国は反対を表明しています。

EUの原発建設が加速するのかどうか

 ロシアによる欧州各国向け天然ガス供給を使った揺さぶりは、改めてエネルギーの安全保障戦略を問い直しています。この危機が短期間で終えるのか、長期化するのかは不明ですが、2022年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻によって欧州のエネルギー政策は根本から揺さぶられたのは事実です。

 脱原発を死守してきたドイツがわずかな期間ですが、非常時に備えて原発稼働の準備を延期するのです。脱炭素に向けて有効な手段と分かっていながらも反対してきたドイツが背に腹は変えられないとばかりに微調整せざる得ない。ドイツ国民のみならず欧州各国の空気の変化が反映されています。欧州の原発建設が加速される可能性があるのかどうか。注目していきたいです。

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