Eco*nomy

G7環境相会議④福島第1原発の汚染処理は世界に理解されているのか

 G7気候・エネルギー・環境大臣会合で公表したコミュニケの日本語訳が話題になっています。朝日新聞の5月16日付記事によると、全国の約150の市民団体らが「福島第一原子力発電所の事故対応」の項目で環境省が公表した日本語訳が間違っているとして撤回を求めているそうです。コミュニケの原文は英語で、環境省と経済産業省は「仮訳」として日本語で公表しています。

 かなり長い引用で申し訳ないですが、コミュニケの第71番目の福島第一原発の項目を原文の英語、環境省の仮訳を下記に引用しました。誤訳ではないかと指摘しているのは、処理水の放出や除染土の再利用に関する2カ所。

 まず処理水は、仮訳で「廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(アルプス)処理水の放出」と続く文章の部分。引用欄では緑色の部分です。原文ではオレンジ色の部分。朝日の記事を読む限り、環境省の仮訳は「処理水が安全基準を満たして放出されている」かのような印象を受けますが、原文はニュアンスが違う、と。

 原文を読むと、国際機関のIAEAの安全基準や国際法に従って人体や環境に被害を与えないよう汚染水の処理が進んでいるかを検証することは支持すると読めます。環境相コミュニケが支持しているのは、IAEAの独立した審査(レビュー)です。ちなみに英語の原文をGoogle翻訳しました。下記に全文翻訳を引用しました。Google翻訳が完全とは思いませんが逐語訳する癖がある翻訳機能ですから、環境省の仮訳との違いを比較する価値はあります。

 Google翻訳では「我々は、高度液体処理システム(ALPS)処理水の排出がIAEAの安全基準と国際法に従って行われ、人体や環境に害を及ぼさないことを保証するためのIAEAの独立審査を支持する」となりました。環境省の仮訳は「レビューを支持する」とありますが、「独立審査を支持する」。

 仮訳を読んだ印象は、すでに審査した結果、言い換えればレビューそのものを支持するとなりますが、コミュニケが支持表明しているのは第三者として独立した審査を行うIAEA。私たちが日常使う日本語のカタカナ「レビュー」と英語の「review」の意味合いの違いを考えたら、環境省の仮訳は「処理水の作業は順調に進んでいる」との印象がちょっと強く出過ぎているようです。

 2点目は除染土の利用。日本語の仮訳は「オープンで透明性をもって、国際社会との緊密なコミュニケーションをとりながら進められているこれらの取り組みを継続するよう、日本に奨励する引用欄は茶色)とあります。英語の原文(引用欄は紫色)は「encourage」を使って、オープンで透明性を維持しながら、継続することを奨励する意味です。Google翻訳は「オープンかつ透明性の高い方法でこれらの継続的な取り組みを進めることを奨励している」。

 環境省の仮訳は、すでにオープンで透明性を実現して、国際社会と緊密に連携している除染土の作業を継続するよう奨励しているように受け止められますが、原文やGoogle翻訳を読むと「オープンで透明性を維持しながら、国際社会と緊密なコミュニケーションをとりながら」までは同じですが、「この前提を守って作業を継続することを日本に求めている」と理解することもできます。

 英語と日本語訳のニュアンスをどう理解するかは、どの言葉を選ぶかで英語圏、日本語圏それぞれで違い、齟齬が発生することは過去の外交史をみてもわかります。万が一、環境省や経産省が仮訳で日本国内向けに福島第一原発の廃炉・除染が国際的に評価されたと強調したいと考えたとしても、世界各国が理解するのは英語の原文です。日本だけうまくいっていると理解されても、海外で万が一理解されていなければ、環境相会議を開催した意義は雲散霧消します。

 環境省も経産省も最も力を入れることは、世界各国に福島第一原発事故から日本は着実に復興していることです。英語を日本語訳に翻訳することにエネルギーを消耗するのは、無駄遣いです。

コミュニケの原文

Response to accident of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station: Taking note that the International Atomic Energy Agency (IAEA) has reported on progress in the situation at Fukushima Daiichi Nuclear Power Station over the past years, we welcome the steady progress of decommissioning work at the site and Japan’s transparent efforts with IAEA based on scientific evidence. We support the IAEA’s independent review to ensure that the discharge of Advanced Liquid Processing System (ALPS) treated water will be conducted consistent with IAEA safety standards and international law and that it will not cause any harm to humans and the environment, which is essential for the decommissioning of the site and the reconstruction of Fukushima.We also recognize the step by step progress of environmental restoration for the affected area offsite of the TEPCO’s Fukushima Daiichi Nuclear Power Station, while Japan is working with the IAEA expert group to discuss the challenge of recycling of removed soil and its final disposal. We encourage Japan to proceed with these ongoing initiatives in an open and transparent manner, in close communication with the international community.

環境省の仮訳

福島第一原子力発電所の事故対応:国際原子力機関(IAEA)が過去数年以上にわたって福島第一原 子力発電所の状況に関する進捗について報告していることに留意し、我々は、同発電所の廃炉作業 の着実な進展とともに、科学的根拠に基づき IAEA とともに行われている日本の透明性のある取組 を歓迎する。我々は、同発電所の廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(ALPS) 処理水の放出が、IAEA 安全基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさ ないことを確保するための IAEA による独立したレビューを支持する。我々は、また、日本が IAEA の専門家グループと連携し、除去土壌の再生利用と最終処分の課題を議論するために取り組んでお り、東京電力福島第一原子力発電所の敷地外における被災地の環境再生が一歩一歩進んでいること を認識する。我々は、オープンで透明性をもって、国際社会との緊密なコニュニケーションをとり ながら進められているこれらの取組を継続するよう、日本に奨励する

Google翻訳

福島第一原子力発電所の事故への対応:国際原子力機関(IAEA)が過去数年間の福島第一原子力発電所の状況の進展について報告していることを踏まえ、我々は、現場での廃炉作業が着実に進んでいることを歓迎する。そして、科学的証拠に基づいた日本のIAEAとの透明性のある取り組み。我々は、高度液体処理システム(ALPS)処理水の排出がIAEAの安全基準と国際法に従って行われ、人体や環境に害を及ぼさないことを保証するためのIAEAの独立審査を支持する。廃炉と福島の復興。我々はまた、東京電力福島第一原子力発電所の敷地外の被災地域の環境回復が段階的に進展していることを認識する一方、日本は除去土壌のリサイクルと最終処分の課題についてIAEA専門家グループと協力して議論している。我々は、日本に対し、国際社会と緊密にコミュニケーションをとりながら、オープンかつ透明性の高い方法でこれらの継続的な取り組みを進めることを奨励する。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 三井不動産「街と人の外苑」よりも「明治神宮の内苑」を最優先

  2. 女性の「ガラスの天井」は世界第3位 大企業と中小企業、東京と地方の格差が足かせに

  3. 再生ファンドの主宰者が学校経営 尻すぼみのESG・SDGs投資を活性化する試金石になるかも

  4. フランスの「助け合い商店」 貧富の格差を住民同士が互いに補完

  5. 缶チューハイが企業の倫理観を試す 利益に酔えない商品開発、マーケティング

  6. SOMPO 櫻田会長・辞任 経営の信用を補償する保険はない

  7. 1強ゆえの傲慢が生んだ経営の歪み、エネオス経営トップが連続で女性へのハラスメントで辞職

  8. 街は創るものなのか、創られるものなのか 三井不動産の「宮下公園」が教える足りないもの

  9. 「1・46度」の警鐘 努力目標の上昇気温1・5度に迫る 終末時計は刻み続ける

  10. 実行力を問われるCOP28 理想を手にできるのか、それとも画に描いた餅に

  1. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  2. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  3. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

  4. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  5. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  6. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  7. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  8. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  9. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  10. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP