2023年はESG、GXの冠を載せた新しい債券が大量に発行されそうです。まず国債。政府は脱炭素を目的にした「GX経済移行債」が1・6兆円分を発行されるそうです。2023年度当初予算で5000億円を予定ししていましたが、22年度第2次補正予算でも盛り込まれた脱炭素事業のうち1・1兆円分を加えることが決まりました。そして地方債。総務省はESGに限定した地方債を自治体が共同で発行できる制度を検討しています。ESG・SDGs投資で先行する欧米では狙い通りの収益を確保できないとの批判が出始めています。欧米の背中を追うように周回遅れの日本が発行ラッシュになるのは、なんとも心配です。
政府はGX債5000億円
「GX経済移行債」は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた投資資金に振り向けられます。政府は目標である温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするには10年間で150兆円の投資が必要と試算しており、このうち20兆円をGX経済移行債の発行を通じて調達し、企業など民間に供給します。
GXとは地球温暖化を阻止するグリーン・トランスフォーメーションの略で、経団連も政府と二人三脚で推進する方針を表明しており、GX経済移行債が大量発行されても資金調達に支障を来す恐れは小さいのでしょう。
それにしても腑に落ちません。23年度当初予算で初めて発行する方針で、5000億円分が予定されていたのに予算執行は23年度に入るとはいえ、22年度補正の1・1兆円分を後から組み込むことがよく理解できません。脱炭素の名目がありますが、それなら既存の脱炭素事業をどんどん放り込んで20兆円にかさ上げすることができます。
脱炭素は技術開発や発想の転換などいわば新しい挑戦です。これまでやっていたことを踏襲して、新しい予算に後付けてしているだけなら何も変わりません。
小さな自治体も発行可能に
一方、総務省が検討する地方債は、自治体が共同で発行できるため、財政規模が小さな自治体も手がけることができるようになります。ESG、SDGsはどの自治体にとっても重要な政策案件。起債しやすいとなれば、ESGやグリーンなどの冠をつけた地方債の発行ラッシュが始まるでしょう。投資家のESG関連への関心は高く、注目を集めるはずですから。
ところが、債券市場は波乱の嵐が吹き始めます。日銀は12月20日、10年間継続した大規模金融緩和を突然、修正しました。10年物の長期債の金利上限は0・25%から0・5%へ引き上がり、債券市場の様相は大きく変わりました。
日銀が保有する国債残高が初の5割超
まだあります。日銀の国債保有が初めて発行残高の5割を超えてしまいました。突然、金融政策を変更した前日の19日に公表された資金循環統計によると、日銀の保有残高は9月末で全体の50・26%。大規模な金融緩和策を狙って国債を大量に買い続けた結果、国の借金である国債の5割超を日銀が保有するおかしな状況です。
当然、いろいろな投資リスクが大きく、しかも増えてきます。日銀のゼロ金利政策のおかげで政府は国債を大量発行できましたが、軌道修正が始まったことで政府の金利負担が一気に膨らみます。しかも、市場での長期金利が上昇すれば、国債価格は低下することを意味するので、日銀が大量に保有する国債は時価換算すれば、評価損が発生します。すでに9月末時点で9000億円近い評価損が発生しています。
欧米では収益が期待できないとの批判も
日本の金融市場が揺らぎ始めている一方で、欧米で急速に伸びてきたESG関連の投資にブレーキがかかる気配が漂い始めています。世界最大の投資会社ブラックロックで長年、ESG関連の金融商品を取り扱っていた専門家が自著で「予想通りの収益を上げることができない」と明らかにして、特定の事業に絞り込んで融資や投資する方が効果的だと指摘しています。ESGを隠蓑にしているとの批判を増え、ESG関連の投資案件に疑問を提示する意見が相次いでいます。
しっかりと精査し、実効性を検証
国、経済界の官民が共同で地球環境問題、ESG・SDGsに取り組むのは大歓迎です。ただ、資金を調達したものの、実効性を得られないまま立ち往生してしまうことも否定できません。ESGは理想をめざす見た目にも美しい「絵に描いた餅」と割り切ってしまえば、わずかな反省で済むかもしれませんが、それではまさに本末転倒。しっかりと成果が得られるかどうかを精査しなければいけません。まったく当たり前のことですが、ESGやGXを棚ざらしにしないためにも、ESG関連のマネー動向は注視し続ける必要があります。
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