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川崎重工 既存事業から新たな改革レシピを創出 Eco*Ten6・4点 Kawasakiの美学に酔う

 川崎重工業の環境経営度をEco*Tenします。

 三菱重工業、IHIと並ぶ日本を代表する機械メーカーです。明治から始まった近代日本への転進を実現するうえで、欠かせない造船、生産機械、航空機、自動車など数えきれない生産品目を手掛け、日本経済の基盤を支えてきました。中高生の頃には、第二次世界大戦に登場した高性能戦闘機「飛燕」、バイクの「マッハ」「Ninja」に夢中になりました。新聞記者として取材する時期がありましたが、飛燕やNinjaが放つ魅力と輝きを大事に守り続ける企業風土に感心していました。

 川崎重工が三菱重工やIHIと比べて注目したいのは、その身軽さ、フットワークの軽さです。かなり乱暴ですがあえて企業イメージを評すれば、まず三菱重工は自分たちが国を支えているのだという自負の塊り。IHIは石川島播磨重工業の歴史を背負い、世界最先端の技術を追い求める意識が充満しています。そして川崎重工は、高い技術力に裏打ちされた美学をすべての製品に映し出すことを重視しています。

 その典型例がバイクのNinja。映画「トップガン」で主演のトム・クルーズがこのバイクに乗って、米空軍の最新戦闘機のトップガンとして疾走するシーンが何度も登場します。本人はこのバイクが大好きなのでしょう。わざわざNinjaの疾走シーンを挿入しているのがわかります。高い走行性能はもちろんですが、デザインが美しい。日本のメッサーシュミットといわれた飛燕に重なります。日本のバイクはホンダ、ヤマハ、スズキの3社いずれも世界でトップクラスの性能と人気の評価を得ていますが、Kawasakiブランドは自己陶酔するオーラを発しているところが3社との違いです。

 そのKawasakiならではの美学がEco*Tenでもキーワードになります。川崎重工は2022年12月、「グループビジョン2030・進捗報告会」を公表しました。2年前の2020年、カーボンニュートラル実現など企業が直面する気候変動に対する経営改革を議論し、2030年を目標にした成長シナリオを作成しています。2年間の経過を踏まえて、目標に対しどれだけ進捗しているのかを公表し、川崎重工の経営改革の実行力をアピールしたい思惑です。

グループビジョン2030・進捗報告会はこちらのアドレスから参照できます。

https://www.khi.co.jp/ir/library/other_presen_211209.html

 進捗報告会と銘打っているぐらいですから公表内容は予定通り成功裏に進んでいることになっています。そこは十分に承知しながら、川崎重工の環境経営に向けたベクトル、実行力などをEco*Tenの評価項目ごとで見てみます。

 ちなみにEco*Tenは評価項目が5つ。それぞれ2点満点で、合計10点満点です。

①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。1・5点 

 2030年に向けたビジョンは、カーボンニュートラルを達成するために求められる産業の変革を新たなビジネス機会の創出と捉えて、新たな事業創出をめざすとともに既存の事業収益の立て直しを掲げています。日本を代表する機械メーカーですから、生産品目の多さは百貨店並み。ビジョンでは脱炭素の切り札である水素関連を主力事業として立ち上げるほか、電気自動車と並んで脱炭素の移動体として期待される公共交通機関の需要増を見込んだ車両事業の建て直しにも注力しています。

 注目したいのは、バイクやオフロード向け四輪駆動車に力点を置いていることです。脱炭素にばかり目を奪われず、自然と一体になって楽しむエンターテインメント分野を拡大しています。カーボンニュートラルといえば従来の行動様式を変える発想を求められるあまり、がまんすることばかりが強調されますが、自然そのものを楽しむライフスタイルの広がりを見透します。

 百貨店のように多すぎる生産品目を逆手にとって、2030年までに成長する市場に向けて生産品目を大胆に絞り込んでシフトする経営戦略はとてもおもしろいです。

 カーボンニュートラルへの対応といえば、自動車産業が電気自動車へのシフトに苦労しているのが典型例で、従来の強みが弱みに転じてしまうことが注目されてきました。川崎重工は、あまたある製品と経験を跳躍板に得意分野をより強くすることに向かっています。強いものをより強く。当たり前のようですが、将来を見透して経営戦略を描き直したのは新鮮な驚きです。

②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。1・0点

ビジョン進捗報告会ではバイクやオフロード四輪駆動車などモーターサイクルの分社化、鉄道車両の黒字化、船舶、エネルギー・環境などをまとめ上げた水素事業などが主な成果と説明しています。モーターサイクルは分社化で過去最高益を計上。車両は黒字化へ。水素関連は、自社の関連企業を結集して一直線に走る姿勢を明確にしました。数多くの事業から主な3本柱を切り出す思い切りは他の製造業が学ぶ点です。

③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。1・5点

 ビジョン進捗報告会では、自画自賛しています。バイクとオフロード四輪駆動車などを統合したモーターサイクルは過去最高利益。車両事業は黒字化。水素事業は、別のセクションを設けて具体的な事業成果を説明しています。いずれも目標の2030年までに実現するできそうな雰囲気です。目標を達成するために未完成の技術や新たな事業の遂行を前提にしておらず、すでにある技術と事業のメニューから新しいメニューを加えているからです。「このレストランなら、この新メニューもおいしいだろう」と安心して注文する感覚に似ています。

④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。1・2点

 強いものをより強くを貫きながら、水素を切り口に事業全体の再編に取り組んでいます。百貨店のように多くの生産品目を扱うだけに、事業再編を実行しても総花的な良いとこ取りの事業骨格に仕上げ、変革したつもりになりがちです。ビジョンから水素事業を屋台骨の一角に据えるため、既存事業から必要な技術と経験を吸い取り、新たな事業に設計したメッセージを感じます。経営側の覚悟が従業員に伝わる潔さです。

⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。1・2点 

 カーボンニュートラル実現に向けて水素を切り口に事業改革する姿勢から、川崎重工ならではの美学を読み取ることができます。既存の事業それぞれがカーボンニュートラルを新しい需要創造と捉え、その足し算して収益を高める発想があまり見えません。川崎重工ほどの大企業なら従業員、取引企業などを念頭に入れると、事業ひとつひとつをカーボンニュートラルをキーワードに再構築した方が現実的です。

 しかし、それなら他の製造業が実践している経営手法。川崎重工が「他の企業と同じことをするなんて・・・」という声が聞こえそうです。同じことを実行していても、他の企業と差別化し、Kawasakiらしい実行力を見せつけたい。

 経営改革は外見が大事。成果が問われるのは当然です。ただ、他の企業、他の産業、他の国のライバルより先進的な経営改革に挑戦しているイメージを発することは、とても大事だと思います。川崎重工のような日本企業がもっと増えてほしいです。

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