Eco*nomy

フランスの「助け合い商店」 貧富の格差を住民同士が互いに補完

  日本の小売業でも始まる未来を見た気がしました。NHKニュースで紹介されたフランスの「助け合い商店」です。仕組みはそんなに難しくありません。同じ商品に価格が3種類設定され、値札は「安い」「標準」「助け合い」。通常の定価は「標準」に相当するのでしょうか。商品を購入する消費者はそれぞれ自らの所得に応じて3種類の価格のうち1つを選び、支払います。突然、店頭で目にしたら驚きますが、助け合い商店が誕生した背景を知ると、納得してしまいますから不思議です。

価格は「安い」「標準」「助け合い」

 助け合い商店を伝えるNHKなどによると、多くの人は割高な「助け合い」を選ぶそうです。所得が少ない人は「安い」を選んでいましたから、全体でみると商店の売り上げは「標準」に収まる範囲なのでしょうか。日曜大工用品やパンなどが店頭に並んでいるそうです。

 フランス現地を訪れてお客さんや店主のお話を聞いているわけではないので「助け合い商店」の詳細はわかりません。助け合いの趣旨として実効性がどこまであるのかどうかも不明です。

 ただ、日本社会が直面する課題を念頭に描くと、新しい小売りの業態として検討する価値があると思います。フランスなど欧州は日本同様、消費者物価が上昇し続けており、所得が低い層の生活は厳しさを増しています。社会福祉の制度が違うので、日本と単純に比較できませんが、助け合い商店の発想は、現状を打開するヒントを含んでいます。

日本の社会福祉は欧米と比べ平均点以下

 日本の社会福祉は、欧米各国と比較すると平均点以下です。社会保障の給付はGDPの23・7%(2018年比較)。米国や英国を上回りますが、スウェーデンの27・8%、フランスの31・7%、ドイツの26・2%を下回ります。日本は65歳以上の高齢化比率で欧米に比べて大幅に高い25%超に達しており、これに伴い社会保障費が膨らんでいる実情を考慮すれば、実質的な保障内容は下回っています。例えば福祉関連は5%を割り、欧州の半分以下。一人当たりの保障内容はさらに乏しくなります。

 社会保障の財源をみると、政府や自治体による公費負担は8・9%。個人負担を重視する米国の6・9%を上回っていますが、英国、フランス、ドイツ、スウェーデンは10%を軽く超えています。個人の負担比率は日本が6・9%。社会福祉の先進国であるスウェーデンや英国は3%台と低く、フランスが日本とほぼ同じ6・8%。ドイツは9・3%と上回りますが、フランスとドイツの社会保障の給付はGDP比で見て日本を上回っていますから、個人負担が高いといっても、日本に比べて保障内容の充実度はかなり高いはずです。

個人負担の重さを解決するヒントに

 日本政府は子育て政策などの拡充を掲げています。ただ、後手に回りがちな政府の施策を念頭に浮かべると、日本の社会保障の現状を早急に解決する手段として、個人が相互に不足分を補い合う発想が浮上しても不思議ではありません。本来は政府が保障給付を拡大するのが原則ですが、政府の動きが鈍く、解決の道のりはかなり遠いと考えざるを得ません。

 助け合い商店は、1種のクラウドファンディングと考えた方が理解しやすいようです。食費など生活費の不足を手っ取り早く補うため、同じ地域に住む個人が手助けし合う。不要なものを無料で貸し出したり、譲ったりする動きはすでに広がっていますが、米飯やパンなど日々消費する食材などはレンタルや譲り合いの方法では限界があります。

 政府や自治体に代わって、住民同士が日常生活を互いに支援する。税金を支払いながら、本来なら自治体など負うべき社会福祉の拡充を肩代わりすることに抵抗はあります。しかし、現状を打開するためには、日本でも「助け合い商店」をヒントに新たな手法を考える時期です。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 三井不動産「街と人の外苑」よりも「明治神宮の内苑」を最優先

  2. 女性の「ガラスの天井」は世界第3位 大企業と中小企業、東京と地方の格差が足かせに

  3. 再生ファンドの主宰者が学校経営 尻すぼみのESG・SDGs投資を活性化する試金石になるかも

  4. フランスの「助け合い商店」 貧富の格差を住民同士が互いに補完

  5. 缶チューハイが企業の倫理観を試す 利益に酔えない商品開発、マーケティング

  6. SOMPO 櫻田会長・辞任 経営の信用を補償する保険はない

  7. 1強ゆえの傲慢が生んだ経営の歪み、エネオス経営トップが連続で女性へのハラスメントで辞職

  8. 街は創るものなのか、創られるものなのか 三井不動産の「宮下公園」が教える足りないもの

  9. 「1・46度」の警鐘 努力目標の上昇気温1・5度に迫る 終末時計は刻み続ける

  10. 実行力を問われるCOP28 理想を手にできるのか、それとも画に描いた餅に

  1. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  2. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  3. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

  4. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  5. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  6. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  7. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  8. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  9. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  10. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP