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地域は過ちを発信できるか① 原発、運転延長・再稼働へ 水俣・足尾が教えること

 政府は原子力発電所の推進にカジを切りました。2011年の東日本大震災以降、福島第一原発事故の収束に精力を使い、原発の新増設や再稼働は事実上凍結されていました。12年後の日本のエネルギー事情は、剣ヶ峰に立たされています。

剣ヶ峰のエネルギー事情だから・・・

 地球温暖化に向けたカーボンニュートラル、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー危機の加速、国内の老朽化した火力発電の代替など。太陽光や風力など再生可能エネルギーが予想以上に普及したとはいえ、原発休止の穴を埋めるほどの電源にまで育っていません。

 2022年の夏、冬の電力需給は大規模停電を招く恐れがあるほど追い込まれました。日本のエネルギー危機を乗り切るためには原発を再びフルに活用するしかない。その突破方法として編み出されたのが60年超の運転延長。これまで換算してきた安全審査などの休止期間は老朽化などに影響はないと考え直し、換算から除き事実上運転延長の道を拓きました。実際、原発の新増設には長い年月が必要。手っ取り早く原発の稼働比率を高めるためには既存の原発の運転を増やすしかないからです。

 しかも、運転中、あるいは休止している原発は改めてゼロから建設に必要な手続きを踏む必要がありません。立地する県や自治体などの同意は欠かせませんが、新規立地の作業を考えたら雲泥の差です。

 どうしても消えない不安があります。地域の声はどう反映されるのでしょうか。これまで安全に運転していたから、周辺地域の住民は不安を抱いていなかったと結論付けできません。

女川原発は地震多発を知る担当者の提案で事故を回避

 東北電力の女川原発は地震が多発する東北の事情を知る担当者が津波へ侵入を跳ね返す防潮堤を当初の設計よりも高めました。それが大津波に襲われながら、わずかな差で津波の侵入を防ぎ、福島第1原発事故に続く大惨事を回避することができました。地域には多くの知見があります。科学的に論証されていなくても、素朴な疑問や長年伝承された危機対応策があります。

遠回りかもしれないけど、地域の声と知見を聴く

 政府にとっては遠回りに思えるかもしれません。しかし、福島県浪江町、大熊町、双葉町など浜通り地区の街並みを思い浮かべてください。原発に代わる政府プロジェクトである水素基地の建設が始まり、ホテルや道の駅、役所や学校など公共施設の建設があちこちで動き始めています。動き始めていないのは町民の復帰です。

 10年以上に及ぶ避難は、自分自身のふるさとに帰る術と意欲を失うのに十分です。10年以上に及ぶ時間、労力、消耗をどうこれから活かすのか。福島第1原発事故から炙り出された教訓に学ぶことが、避難を強いられた地域に対する礼儀です。

水俣、足尾の教訓にも学ぶ

  東日本大震災以降、全国を歩き回りました。コロナ禍もありましたが、感染状況を考慮しながら水俣、福島を訪ねました。原発政策が大きく動き始めたのを機会に問題提起をしたいと思います。地域の新聞がもう10年以上も継続している報道に叶うわけがないのは承知しています。ただ、「こんな見方があるんだ」という視点もあるかもしれません。原発はじめエネルギー、企業経営、地方行政などを取材して歩いた経験から一石を投じてみます。

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