ESG・SDGsと企業経営

街は創るものなのか、創られるものなのか 三井不動産の「宮下公園」が教える足りないもの

 東京・渋谷は大学生の頃、毎日のように歩き回りました。もちろん、夜はいつも通うバーボンバーで飲み、時には朝まで。ちゃんと勉強もしましたよ。渋谷のパルコを素材に広告やマーケティングに関する研究論文をまとめ、電通のコンテストに応募、第3位に入賞しました。もう40年以上も前の思い出ですが、センター街の風景は今でもくっきり目に浮かび、渋谷を訪れれば一週間前の出来事のように楽しかった時間が蘇ります。

かつて宮下公園はちょっと重かった

 足を踏み入れない数少ない場所は「宮下公園」でした。当時は、ホームレスのみなさんが寝泊まりしており、人通りが少なく昼間でも空気がちょっと重かった。ホームレスさんに気を遣っていたわけではありませんが、公園を支配する空気、裏返せばよそ者が邪魔しちゃいけない空気を感じたからです。宮下公園というと、今でも夜の真っ暗な園内のイメージが浮かびます。

宮下公園

 ところが、今は予想を超える変貌を遂げています。心の準備はできていました。ここ数年、広瀬すずさんがテレビのCMで三井不動産が盛んに「三井のすずちゃん」というキャラクターに扮して、宮下公園を歩き回り新しい街づくりを訴えています。渋谷駅周辺はいつ始まったのか、そしていつ終わるのか想像するのも面倒になるほど延々続く再開発にうんざりして足が遠のいていましたが、つい最近ちょっとした所用のついでに渋谷をひと回りました。

広瀬すずさんが街づくりをPR

 センター街はテレビなどでよく放映されるのでテレビ画面の通り。驚きはありません。宮下公園にはちょっと戸惑います。宮下公園と思われる場所に向かうとビルが立ち並び、宮下公園がどこがわかりません。歳をとったせいもあって、「宮下公園」は「宮益坂」と勘違いしたのかと迷走していしまいました。

 渋谷周辺は高いビルだらけ。古くからある飲食店街は頑張っていましたが、知らないビルが立ち並ぶので地理が狂ってしまいます。渋谷駅も東横線など改札口が変わっているので、駅構内も彷徨います。一番確かなのはJR線の高架線。まるで磁針で地理を確認するコンパスのように視野に入れながら、宮下公園を探す自分が情けない。

宮下公園

 見つけました。宮下公園。青山から宮益坂を下って歩くと、右側に。三井不動産のテレビCMのイメージを頼りに探すと、「らしい」風景を見つけましたが、予想よりは埋没感を覚えます。渋谷の風景すべてが刷新されているからなのでしょう。歩道橋に立って眺めると、かつての宮下公園はありません。当たり前です。再開発したのですから。渋谷駅周辺の区画として一新されています。もちろん、かつての黒い空気は微塵も見当たりません。目に入るのは、アーチ状を描いたオープンエアの屋上を被ったショッピングモール。

渋谷と新宿の違いがわからない

 モールの充実感はさすが三井不動産です。フードエリアはもちろん、テナントは有名ブランドが連なります。好きなアウトドアブランド「MAMMUT」もありました。

 意外だったのはフードエリア。ファーストフードなどがメインで、客層は若者に焦点を当て、私のような高年齢層は眼中にないのが一眼でわかります。50年前、センター街を闊歩していた自分がそうだったのですから、渋谷はそれで良いでのす。でも、フードエリアやブランドのお店はいずれもどこにでもあるものばかり。お店のレイアウトやディスプレーも新宿などと同じ感覚。なぜ宮下公園で改めて体験しなければいけないのか。不思議な気分を覚えました。

ドラえもんが写真撮影のお約束

 三井不動産の「売り」である屋上を歩くと、10代の女子や男子が写真を撮り合い、雰囲気は若者というよりは10代の街。あとは海外観光客が目立ちます。全く予想していなかったので、最初見た時は判別できませんでしたが、チョコレート色のドラえもんの前がインバウンドの海外観光客のみなさんに支配されていました。写真撮影の人気スポットになっているようです。スケートボードの練習エリアもありました。

昭和のオヤジの限界を自覚

 昭和のオヤジの感覚が大きくズレているのも承知です。やっぱり違和感が消えません。ジグゾーパズルのピースを無理やはめ込んだ印象です、ピースそのものはすばらしい。でも、なんか周りとピタッとはまっていない。ジグゾーパズルに挑むと、この感覚を何度も何度も味わいますよね。なんか感覚が違う。このピースは選択ミスだと納得するしかない。

 そういえばセンター街も四苦八苦しています。本来なら10〜20代の若者を超え高年齢者層も訪れる幅広い街作りを目指していました。しかし、結局は10代の若者らが常に主役の座。ガングロやハロウィーンなどが注目され、意図せざる街の人気に戸惑う商店主の声を何度も聞いたことがあります。

 それは渋谷の再開発を主導する東急グループも同じ思いでしょう。1980年代、東急グループの総帥、五島昇さんは東急百貨店のすぐ近くに「Bunkamura」を建設して「大人の街」を目指しました。見事に失敗しました。それはセンター街に象徴される若者の勢いに圧倒されたからです。

渋谷は他にないイノベを発信したら

 街を創るエネルギーというものがあるのでしょう。三井不動産は自らの理念として「人が主役の街づくり」「街づくりを通して、持続可能な社会の構築を実現すること」を説明しています。今回の宮下公園の再開発も全国でショッピングモールやアウトレットパークを展開した経験を注ぎ、南北2つに分かれていた旧渋谷区立宮下公園を一つにし、公園・商業施設・ホテルが一体となった次世代型の複合施設を2020年6月に開業しました。

クラブ・クアトロ

 しかし、渋谷という街のエネルギーは過去、パルコを生み、東急ハンズを育て、ライブハウス「クラブ・クアトロ」など「他の街にない刺激」、言い換えれば生活のイノベーションを発信し続けてきました。「街の文化」と呼ぶよりもは、10年後、20年後のライフスタイルを体感できる仮想空間を創り出してきた歴史といえます。

街は人が創る

 全国各地に展開するショッピングモールやアウトレットを再現する三井不動産の思いは、渋谷が秘めるエネルギーに吹き飛ばされているのかもしれません。だから、新しい「宮下公園」の違和感が漂うのでしょう。改めて街創りは不動産会社が主導できることではないことを思い知りました。街は人が創るのです。

歩道橋から渋谷駅方面を眺める

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