ESG・SDGsと企業経営

規格外の野菜 売れ筋変身には規格外のコスト 試される消費行動の変化

 SDGs関連のイベントで必須といえるテーマがあります。キーワードは「Re」。Reuse(リユース) Reduce(リデュース) Recycle(リサイクル)に総称される発想に立って、これまでなら使わずに捨てられていた素材を利用した商品が多く紹介されています。繊維に加工して織物に、あるいはただ同然の価格で家畜の餌になっていた野菜や果物などおしゃれな商品に生まれ変わります。今回は外形や色合いが悪いなどを理由にスーパーなど店頭に並ぶ機会がほとんどなかった規格外の野菜について考えてみました。

集荷コストが割高で利益は期待できない

 「農家さんが規格外として販売できない野菜を回収するトラックなどの物流コストをどう吸収できるか。正直、利益は見込めませんね」。大手新聞社が主催したSDGsイベントの食品売り場のスタッフは率直に語ってくれました。

 神奈川県の三浦半島や湘南地域を拠点にカフェや八百屋さんを経営する「Mottene(モッテーネ)の方でした。食材を無駄にしない「もったいない」から由来するモッテーネは、外観が悪い、サイズの大小などで市場に出回らない野菜、いわゆる規格外の農産物を取り扱っています。果汁や野菜などを利用した飲料や加工品を開発して、販売しているそうです。

 規格外の野菜は食物の廃棄、いわゆるフードロスを解消するため、活用が盛んに広まっています。しかし、規格外の野菜を集荷するのは物流コスト、さらに仕分けの手間など目に見えないコストが隠れています。親しい農家さんと話していても、「規格外となった野菜を仕分け、集荷するトラックを待っている時間などが結構な負担になってしまい、規格外の野菜をこれまで通り処分したほうが良い」という結論に至ることがあるそうです。

大手メーカーに比べれば割高かも

 しかも、たとえ野菜や果物を割安に仕入れたとしても、集荷するコストと商品化の作業を加えれば、販売価格は決して割安にはなりません。キユーピーなど大手食品メーカーが生産するジャムなどと比べれば、むしろ高くなってしまうかもしれません。フードロスをなんとか解消するために商品を買おうと思っても、割高感から購入を諦めることもあるでしょう。

 集荷コストと価格の壁をどう突破するのか。規格外の農産物を活用するハードルはかなり高いのが実情です。

 しかし、フードロスの解消は農産物を海外に頼っている日本にとっては喫緊の課題です。カロリーベースの食料自給率は38%程度。小麦や大豆の増収、米の需要回復などで下げ止まっていますが、目標とする45%まではまだまだ遠いと言わざるを得ません。自給率の低さは家畜飼料の大半を輸入していることもあるのですが、その飼料自給率を除いてみる食糧国産率でも47%と5割を切っています。

 ところが自給率が低いにもかかわらず、フードロスはたいへんな量となって積み重なっています。FAO(国際連合食糧農業機関)の報告書によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄されているのですが、日本は1年間に約612万トン。1人当たり茶碗1杯分のごはんの量が毎日捨てられている計算になります。過半の328万トンがスーパーやコンビニなど小売店での売れ残りや返品、飲食店での食べ残し、さらに規格外として捨てられています。農産物の生産量でもみても、規格外として出荷されない量は全体の14%程度とみられます。

SDGsの実践は消費行動を変えられるかどうか

 SDGsの実践は常に難問が付き纏います。それはそうです。経済効率を追求しているだけだった従来の経済から変換しようという試みだからです。ただ、SDGsの継続性、サスティナビリティを考えると、経済合理性では割り切れないコスト高、価格の上昇が待ち構えています。

 実践できるかどうか試されているのは、私たちの消費行動をどう変えられるのか。この一点に尽きるのかもしれません。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 再開発は誰が決める 渋谷・六本木をコピペした明治神宮外苑は都民の財産か イコモスが見直しを

  2. カーボンゼロを目指すJERAの不思議 新エネの旗手なのか、化石燃料の隠れ蓑なのか

  3. 西武鉄道 再エネで全路線を運行 終着駅は地産地消型のエネライフでカーボンニュートラル

  4. 後発薬品だからって不正もゾロゾロは許されない 沢井製薬、日医工、小林化工

  5. 公共リサイクルボックスの挑戦を ゴミ箱と並べリサイクルを根底から考えるアイコンに

  6. 排出権取引市場が開設 あまりにも遅い試みは、世界から取り残された日本を映し出す

  7. EUが「エコ」を厳密管理 安易な広告表示は禁止 企業は化粧せず素顔で地球環境を語れるか

  8. 国連「気候サミット」日本は発言機会与えられず 見透かされた地球環境の本気度

  9. ジャニーズ、ビッグモーターなど不祥事企業の第三者委員会、信頼性を支えるのは情報公開と内部告発など

  10. バブル以前に終わる日本のESG・SDGsバブル 体面を重んる薄ぺらな化粧はすぐに剥げ落ちる

  1. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

  2. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  3. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  4. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  5. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  6. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  7. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  8. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  9. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  10. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP