ESG・SDGsと企業経営

日本製鉄 シアン流出の報告漏れ ESG経営の評価漏れもあぶり出す

 改めてESGやSDGsに関する経営評価の難しさを痛感しました。日本製鉄が千葉県君津市の工場から有毒物質シアンを流出させ、しかも法定基準値を超えた検査結果39件を3年間以上に渡って公表していないことがわかりました。またシアン流出以前に工場から吐き出された脱硫液の検出についても、高い検出値を無視して低い値を採用して千葉県に対して問題ないと報告していました。些細なことと受け止めるかもしれませんが、企業経営を環境から評価する視点に立てば、とても重要な問題提起と考えたいです。

企業活動は幅広く、すべてを隠し通せるものではない

 企業の活動は開発や生産、販売と幅広く、利害関係者は数えきれません。何事も隠し通せるものではありません。1950年代に発生が確認された水俣病の教訓を思い起こすまでもなく、有害物質の流出・排出は判明した場合には万が一の事態に備えて地域などに公表し、改善するのが当たり前です。ましてESG、SDGsを声高に呼びかけている経団連を支える日鉄が情報公開を怠りました。ESG、SDGsの内実は掛け声倒れと言われてしまうなら、とても残念です。

 日鉄のホームページを参照ください。「総合力No. 1の鉄鋼メーカーに向けて」の大きなタイトルが躍り、画面が変わって「Be The Best Steelmaker」が続きます。思いは十分に伝わります。今回のシアン流出についてはどう伝えているでしょうか。ニュースリリースのスペースに「「東日本製鉄所君津地区における水質測定データの不適切な取り扱い」がありました。資料の参照は次のアドレスから。

https://www.nipponsteel.com/common/secure/news/20220818_200.pdf 

 この資料に限らず、不祥事に関する説明はどうしてわかりにくいのでしょうか。今回のシアン流出に関する資料もていねいに、しかも正確に説明しているのでしょうが、新聞などの記事と照らし合わせて読まないと「何が起こって、その原因は?それで今後の対策は?」を理解できません。

日鉄はGPIFのESG投資の銘柄に選ばれています

 ちなみにHPの画面を下がると、2021年9月に「サスティナビリティ・リポート」を掲載しましたとのお知らせがあります。さらに下のページにある「日本製鉄について」で企業情報、株主・投資家情報と並んで掲載されていたサスティナビリティをクリックします。トピックスに2022年7月27日に『ESG投資のための株価指数「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」および「MSCI leaders Indexs」の構成銘柄に初選定』がありました。内容がわからないので、クリックすると年金積立金管理運用独立行政法人「GPIF」がESG投資のために運用する銘柄に選ばれたということです。補足説明として「ESGに優れた取り組みをする企業が選定されます」とありました。GPIFは資金運用では世界最大級の規模です。日鉄に対するESG経営への評価の高さがわかるはずです。

完全無欠はありえない。過ちを冒した時の対応が重

 その日鉄がESG、SDGsの視点から見たら「やってはいけない過ち」を繰り返しました。企業活動に完璧はありません。かならず失敗や勘違いはあります。ESGも完全無欠な経営を求めているわけではありません。目標にたどり着く努力を重ねながら、ゴールへの道に迷ったらもう一度戻って、歩みを再開すれば良いだけです。ところが、「過ちを犯さない」「許さない」。無びょう性を死守するあまり、過ちを隠してしまうことがあります。その最たるものが原子力発電所の安全神話です。安全を強調するあまり、必要となる設計変更などができなくなる自縄自縛に陥っていました。

内部通報の体制は整っていても機能するのか

 それは社内のコミュニケーションにも悪影響を与えます。週刊東洋経済が実施した「ESG&SDGs調査」によると、日本製鉄は「リスクマネジメント」で第17位の上位で評価されています。内部通報などの体制が優れているということです。世界の企業統治で重要視されている項目の一つです。しかし、脱硫液やシアンの流出は隠蔽されていました。検査結果は現場の多くの人で共有されていたはず。君津地域や東京湾などに有毒物質が流出されている可能性があるなら、公表すべきとの内部通報があってもおかしくありません。

君津は水俣同様、企業城下町

 君津市は日本製鉄の企業城下町です。社内ルールなどが整備されているとはいえ、自らの職場を傷めることを通報できるでしょうか。水俣病を思い出してください。チッソの企業城下町である水俣市はチッソの経営に大きな影響を与える水俣病を巡って二分され、その影響は今も続いています。

 ESGやSDGsに関する経営評価方法は数多くあります。日本製鉄が深く関与する経団連でも「インパクト指標」を使って企業を評価し、ESG投資の拡大を呼びかけています。インパクト指標では利益などの経営指標に頼らず、社会や国民の健康などを例にどう貢献するのかが重要と説いています。今回の日本製鉄の脱硫液やシアンの流出はSDGsで重視している健康と福祉の考え方で評価すれば大幅に減点されるのは間違いありません。

 ESGやSDGsに関する経営の評価はまだ緒についたばかり。繰り返し繰り返し、実際の経営と現場を検証する活動を続けるしかありません。

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