ESG・SDGsと企業経営

神宮外苑の再開発、多くの声を聞き「公共の空間」を問い、街を創る時

 三井不動産が9月28日に東京・明治神宮外苑の再開発事業について説明会を開きます。対象は港区と新宿区の住民や事業者です。明治神宮外苑の再開発事業を巡っては大量の樹木伐採などに批判が集まっていますが、事業者4者の代表を務める三井不動産は東京都に伐採本数をさらに減らす見直し案を報告しており、実現に向けて計画全体の修正ポイントを説明するのでしょう。

 「はて?」とNHKの朝ドラを真似て首を捻ってみたくなりました。神宮外苑の再開発は地域の住民、事業者が納得するだけでOK?。多くの事業を手掛ける三井不動産ですから、まずは港・新宿区から始めて合意形成の対象を徐々に広げて行く方針でしょうが、神宮外苑は「公共の空間」といっても、今や国内外から多くの人が詰めかける国際的な地域に発展しています。銀座や新宿とは違う「公共の区間」を改めて考え、世界から憧れる街創りを目指す時です。

 そんな思いを久しぶりに界隈を歩き、確信しました。JR原宿駅で降りて東京メトロの表参道駅に向かい、国道246号、いわゆる「青山通り」に突き当たったら左へ。青山一丁目に向かい、神宮外苑前に辿り着いたら左に曲がってJR信濃町駅に到着するコースです。もう40年以上も前から歩き慣れた街並みですが、当時は日曜日だったこともあって原宿駅には国内外の観光客が押し寄せ、表参道駅に向かう坂道は人の流れで溢れていました。

 東急のショッピングモール、「キディランド」など人気店の前には長い列が並んでいます。海外の高級ブランド店が以前より増えています。好きだった紳士服ブランドのお店がフランスの高級ブランドに様変わり、客層の変化も実感しました。海外観光客がスマホで自撮りする風景をあちこちに見かけ、表参道駅に至るまでの空間は日本のようで日本じゃない。ニューヨークの5番街、パリのシャンゼリゼ通りと並んで人気が高いと言われることに納得しますが、見慣れた風景がどこか遠くへ消え去っていく寂しさを感じるのは「昭和のオジサン」のひがみだと自覚しています。

 青山通りに入っても、変わりません。人の流れに疲れて横道に外れても、店の前には長い列。店員さんが英語で説明したり「アプリを持っている人は割引できますから・・・」と呼びかけたり。世界でも有名なストリートに人が集まっているというよりも、街自体が成長、進化し続けている躍動感が漂っています。「凄いなあ」と心底、思います。

 ホッとしたのは明治神宮外苑前。いつもの風景でした。まだ再開発事業が始まっていません。変わったのは「4列のいちょう並木を守ります」。小さな看板が立っているぐらいです。

 再開発事業は野球場やラグビー場の建て替え、周辺の樹木の整備に伴う伐採が話題になり、大きな批判も浴びています。東京都知事選でも争点の一つになりました。「いちょう並木」はその象徴です。日本初の風致地区に選ばれるほど緑豊かな空間は住民だけではなく、一流企業が集まる青山地域で働く人にとって憩いの場でした。それが大きく変わるのです。注目を浴び、さまざまな意見が飛び交うのは当然です。

 残念なのは、再開発事業に見直しを求める声が高まっているにもかかわらず、東京都が後押ししていることもあって事業者の計画通りにどんどん進んでしまう。いつの間にか樹木の伐採数に拘る賛成派と反対派の対立構図が一人歩きしてしまい、神宮外苑の「公共の空間」をどう考えるかが置き去りにされ、矮小化されてしまいました。

 三井不動産には9月末の説明会を利用して、神宮外苑を軸に表参道、青山通りを含めた空間をどう捉え直すかを議論して欲しいです。隣接する渋谷駅近くの旧宮下公園の再開発事業を終えており、渋谷から青山通り沿い地域全体の街づくり構想をどう具体化するかの腹案を抱えているはずです。

 釈迦に説法と承知していますが、特定の地域の再開発に成功しても街全体の活性化は不完全燃焼に終わります。インバウンドブームに沸き、海外からの観光客はまだまだ増え続けます。幸運にも神宮外苑は再開発事業で沸く東京都の中で取り残された数少ない一画になってしまいました。ぜひ、歩いてみてください。青山通りから離れて、いちょう並木を歩き、信濃町駅までの道を歩くと、時間の流れが遅くなったことを実感します。

 東京全体を鳥瞰して神宮外苑をどう次代に継承するのか。それが日本の魅力をどう高めるのか。多くの人の意見を集め、侃侃諤諤!に。そして楽しい議論をいろんな場で開催してください。きっと地元の港・新宿区の皆さんは喜びます。

 ◆神宮外苑地区まちづくりのホームページから

 神宮外苑地区まちづくり(以下「本計画」という。)では、2023年9⽉に東京都からの要請を受け、本計画エリア全体で一本でも多くの樹木を保全するため、伐採本数の削減とともに新たなみどりの創出に向けた緑化計画の見直し案をとりまとめ、今月東京都に報告いたしました。本見直し案については、事業者としてより多くの方々にお伝えするために、2024年9月9日よりメディアを通じた幅広い発信、並びに当プロジェクトサイトにてリリース内容の公開と本見直し案の説明動画を公開しております。本見直し案に関するご質問やご意見につきましては、これまで同様にプロジェクトサイトで受け付け、回答を継続してまいります。
また、ご要望をいただいた町会および自治会等には昨年より個別のご説明をおこなってまいりましたが、この度、本計画地が所在する新宿区役所および港区役所より、各区民等を対象とした説明会の開催について要請をいただきました。つきましては、新宿区・港区に在住・在所等の皆様へ、本見直し案について直接ご説明させていただくため、以下のとおり説明会を開催することといたしました

ホームページのアドレスは https://www.jingugaienmachidukuri.jp/

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 衆院選挙、異常な猛暑や豪雨は票にならない!?気候変動対策が公約に盛り込まれない不思議

  2. 神宮外苑の再開発、多くの声を聞き「公共の空間」を問い、街を創る時

  3. イスラエルの博物館、展示品が壊されても保護せずに展示「個人を信頼し、尊重する」を貫く

  4. 個人情報の漏洩250万件 信用を捨てた損保にESGは手に負えない持続不可能な経営だった   

  5. 一条工務店、タマホームなどを悪質例と公表「下請けいじめ」は消費者の購買動機に影響を与えるか

  6. 小林製薬とビッグモーター 不正の図式が同じに見える

  7. 地球温暖化はワイン産地を北へ、北へ 北海道のピノがうまい

  8. ニュージーランド 世界初の牛のげっぷ税を撤回 試行錯誤がエコを進化

  9. 三菱UFJ銀 顧客情報を違法に共有 窓口は厳守でも経営の本音は収益重視

  10. 最近、聞かないESG、SDGs もう当たり前?あるいは賞味期限切れ!? 

  1. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  2. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  3. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

  4. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  5. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  6. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  7. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  8. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  9. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  10. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP