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Eco* ユニコーン創生 日本の社会の掟を破る ゲイツもブランソンも夢見る若者だった

 「千三つ(せんみつ)」という言葉を聞いたことがありますか?新製品や石油資源の開発について現場責任者がたびたび自虐的に引用します。意味は字句を見た通り、1000回のうち3回でも成果が出れば大成功というイメージです。新製品開発も石油資源開発も巨額資金を費やします。精緻な調査と優秀な人材を投入して100%確実と信じて挑みますが、それでも1000回のうち3回でも成功すれば御の字です。

ユニコーンは「千三つ」でも生まれない

 日本はかつて環境技術で世界をリードしていました。ホンダのCVCCエンジンはよく知られていますが、日本の機械技術は圧倒的な省エネ技術を生み、エネルギー効率を極める領域で世界から高い評価を集めていたのです。

 ところが、太陽光や風力など再生可能エネルギーでは中国や欧州勢に引き離され、電気自動車では米テスラや中国、韓国に置いてきぼりされています。今や日本は、環境や省エネに関する技術や事業化で並みのレベルに退いていると自覚する必要があります。

 だからこそ再び、環境分野でユニコーン企業を生み出しましょう。地球温暖化に対応する技術や事業はすでに世界的な広がりを見せていますが、ロシアによるウクライナ侵攻で石油や天然ガスなど資源エネルギーの安全保障が一段と重要になってきました。太陽光など再生可能エネルギーを利用効率を高めるだけでなく、改めてエネルギー全般の常識を覆すブレイクスルーを生み出すスタートアップを日本から輩出したい。

 ひと言で解決するほど容易ではないことは承知しています。創業した1000社のうち3社がユニコーンとして飛翔するとは想像もできません。戦後生まれの会社を思い浮かべてください。数え切れない会社が誕生していますが、みなさんの記憶に残る会社は何社ありますか。やっぱりソニー、ホンダがすぐに浮かびます?

 ソニーはラジオ、ウオークマン、ビデオなどで世界の日常生活を変え、敬愛するアップルのスティーブ・ジョブスはiPod、iPhoneなど生み出しました。ホンダは自動車の世紀を牛耳っていた巨大メーカーの中に割り込み、世界の産業界を支配していた常識を次々と打ち破ってきました。製造業以外でもソフトバンクはどうでしょうか。膨張する資本主義の波に乗って、欧米や中東のマネーをかき集めて「巨額の借金も資産のうち」を体現する不思議な企業グループを形成しています。

 日本政府は2018年に「未来投資戦略」をまとめ、「ユニコーン、またはそれと同等の上場ベンチャー企業を5年後までに20社つくる」と掲げました。5年経過まであと1年間ですが、結果は見えています。不履行です。投資資金を援助する国の機構などを整備しましたが、過去の例を見ても分かる通り日の丸プロジェクトで成功したことはほとんどありません。国を挙げて成功しないのはなぜか。お金だけの問題ではないからです。

日本の社会は、「自信満々は横柄」「果敢な挑戦は世間知らずの馬鹿」

 野望とアイデアしか持っていない若者を社会が認め、応援するかどうか。日本の社会は規律を求めます。小さい頃から周囲と違ったことをしてはいけないと教えられます。自信満々は横柄に映り、何事にも挑戦する姿勢は世間知らずの馬鹿な人間と陰口をいわれます。

 ここで昔話を少し。ビル・ゲイツがWindowsを開発した頃ですから1980年代後半です。日本を訪れました。当時はほとんど無名で、私と同い年ですから20歳代後半です。日経新聞で取材してくれないかと申し込みがあったので、それじゃ英語はあまりできないけれど若い記者でどう?というノリでインタビューしました。さほど大きな記事にならなかったと思いますが、夢を語るだけのなんとも頼りない若者だった印象のようでした。

 その後のビル・ゲイツは説明不要でしょう。ビル・ゲイツはその時の記者には恩義を感じているらしく、彼のインタビューには応じますし、彼だけが「ビル」と呼べる間柄が続いています。

 私も同じような笑い話があります。ヴァージン・グループの創業者、リチャード・ブランソンが1980年代後半に来日しました。彼が運営する航空会社が日本に就航するので、PRするのが目的だったと思います。今でいえば格安航空会社です。日本航空や全日空が支配していた日本の航空業界にとって異端児にもなれず、無視されていた時代です。

 誰も取材する記者がいないので、デスクから「おまえ取材しろ」と言われて、まさにおっとり刀でブランソンが宿泊するホテルの部屋に行きました。もちろん初対面ですが、気楽な雑談が続きました。航空会社のPRはすぐに終わって大半はテムズ川に係留する自宅兼ヨットでの生活です。

 「川の流れで居間や寝室が揺れて、落ち着かないんじゃないの?」と聞いたら、「その揺れがまた気持ち良いんだ」との返答です。当時も巨大な気球で世界を回るとか宇宙に行くとか気宇壮大な話題ばかりで、取材後にどこまで記事にして良いのか迷った思い出があります。リチャード・ブランソン、ヴァージングループのその後も説明不要ですよね。

 もし、ビル・ゲイツもリチャード・ブランソンも日本社会で育っていたら、「訳のわからないことを話していないで、ちゃんと勉強しなさい」あるいは「会社勤めしなさい」と諌められていたかもしれません。

 世界のどこに行っても、その土地その土地の習慣、規律があります。それは掟と呼んでも良いほど強い縛りを感じ、行動と思考を制約します。掟はその土地の歴史と慣習などで形成されるわけですから、良い悪いの問題ではありません。

 ただ、日本でユニコーンとして世界に飛翔できる企業を生み出すためには、夢の実現を縛る掟を捨て去る必要があります。

失敗は引き算で清算、成功は掛け算でより大きく

 これからの日本の社会に求められる掟とは何か。「失敗は引き算、成功は掛け算に」。事業の成功、失敗を取材していると、そんな思いが浮かびます。誰にでもとは思いません。

 しかし、夢を抱いて走っている人間を見かけたら、「失敗したらその分は清算、成功したら、もっとやってみなさい」と励まして成功の果実を掛け算にして応援する。新しい社会の掟は日本を確実に変えるはずです。

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