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Eco*ユニコーン創生 政治・経済の混乱期に生まれる 今が「その時」

 高橋治則さんを覚えていますか。1980年代後半から太平洋を舞台に大規模リゾート開発を仕掛けた不動産会社、EIE(イーアイイー)の社長で、数多くの経済事件も発生したバブル経済の光と影を体現した「バブル紳士」の一人です。日本長期信用銀行(現在の新生銀行)から巨額融資を受けて派手な投資を展開します。南太平洋のリゾートを巡る航空会社も所有しました。総資産は1兆円を超えたとか。長銀は1998年に経営破綻しましたが、多くを知るキーパースンと目されていました。

EIEの高橋治則さんももしかしたら・・・

 バブル真っ盛りの当時、航空や観光などを取材する縁で高橋さんとは時々、会って雑談する仲でした。お金にまつわる話題がいつも身近にあった人だけに、お会いした時もインサイダー取引疑惑が噂されていました。「心外だよね、あなたと食事やお茶している時にあの会社はこうだよねって話題にしたら、インサイダーになるのかね」と苦笑します。長銀からの巨額融資についても「1000億円を任されたことある?長銀からお願いだからと頼まれて1000億円単位のお金を増やそうと努力している。これがおかしいことなの?」。あっけらかんと内実を話してくれます。

 バブル経済は1990年の総量規制をきっかけに終幕に入ります。資金繰りが悪化したEIEは1993年に長銀から支援を打ち切られ、経営が行き詰ります。高橋さんは理事長を務めていた信用組合の背任容疑で逮捕されるなどバブル経済崩壊の表舞台からも姿を消します。長銀は山一証券などとともに経営破綻し、まさにバブルすべてが消えてしまいました。

 歴史に「もし」はありません。しかし、もしバブル経済が幸運にも、きっと100万分の1の確率もない幸運に恵まれて無事に2%台の経済成長へ移行できたら、高橋さんが率いるEIEは事業継続に成功し、世界の金融市場の風雲児であるソフトバンクの孫正義さんのような存在になっていたかもしれません。リゾート開発や航空会社を経営するユニコーンとして・・・。きっと怒られるかもしれませんが、偶然にしても孫さんとみずほ銀行の関係は当時と似ています。

 ユニコーンを創業する経営者はいつ現れるのか。日本の経済史を振り返ると、政治や経済が混乱している時期に突然、登場しているように見えます。明治期は渋沢栄一が代表格です。第二次世界大戦直後にソニーやホンダが続きます。バブル経済崩壊後から始まるIT草創期にソフトバンクが頭角を表します。

 これまでの常識と秩序が崩れ、才能と努力で新しい方程式を創り上げた人間がユニコーンになるのです。なにしろ常識と規律が最大の価値観である日本です。社会生活のみならず、経済活動にも求めます。明治や昭和で確立された企業のヒエラルキーはそう簡単には崩せません。三菱や三井といった財閥系列と結束力はいまも健在です。どんなに野望や夢を持っていたとしても、経済界や会社内のヒエラルキーを一度甘んじて受け入れなければ弾き飛ばされます。

盛田昭夫さんが求めるのは「自分が」といえる人材

 ヒエラルキーの求心力が解かれる数少ないチャンスはいつか。政治経済の混乱期しかないのでしょうか。混乱した政治・経済情勢を乗り切るアイデアとタフな精神力の持ち主だけが、ユニコーンの資格を与えられ、スタートラインに立つことができる。

 

 ソニーの創業者、盛田昭夫さんは1966年5月、「学歴無用論」(文藝春秋)を出版しました。その中でソニーの求める人材を次のように表現しています。「自分を組織の中の人とあきらめず、自分の心のエンジンを自ら発動させ、力一杯に仕事をしたいと願っている人」と示します。その後も「自分の仕事を考え」「自分に重荷を課して」「自らを鞭うつ人」など自身の信念と実行力を16行に及ぶ長文で求め続けます。

 日本の会社では「自分が、自分が」と連呼するといやな顔されるのがオチです。でも、ソニーの成長期は違いました。「俺が、俺が」と前へ進み出てくる人材が欲しかったのです。目の前に立ちふさがる混乱と壁に惑わされずに夢を叶える。明治や昭和の混乱期は経営者の資格を問うフィルターになっていたのです。

 

学歴無用論を出版した当時の盛田昭夫さん(著書から)

 ソニーとホンダの創業者は狂気と熱狂の狭間を綱渡りしながら、倒産の危機を切り抜けて世界の産業史に残る成功の方程式を掴み取ったと考えています。戦後の混乱期です。狂気と熱狂だけでは無理でした。狂気と熱狂をコントロールできる力量をも経営者に、あるいは相棒に求めました。そしてゴールに向かうにはもう一つ。混乱を生き延びる幸運です。

 世界は今、穏やかな日常生活が遠のきそうな不穏な空気が充満しています。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに欧州のみならずアジア太平洋地域でも新たな危機が現実味を帯び、世界経済の将来に暗雲が漂い始めています。地球温暖化阻止に向けたカーボンニュートラルの合意も空中分解しそうです。世界に新しい未来の可能性を切り拓くユニコーンが現れる時は今です。日本から登場してほしいものです。

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