ESG・SDGsと企業経営

COP27 米国ケリー大使が新たな排出権取引制度を提案したけれど・・ 実効性はどこまで

 米国のジョン・ケリー大使(気候変動担当)がエジプトで開催中のCOP27で新しい排出権取引制度を提案しました。アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏の環境財団やロックフェラー財団が支援を表明したほか、マイクロソフトやペプシも参加を検討しており、世界企業が参加する排出権取引制度が誕生します。この制度を活用して途上国の脱炭素プロジェクトを支援する目的ですが、排出権取引制度そのものはすでに欧米を中心にスタートしており、屋上屋を重ねる印象が拭えません。実効性は期待できるのでしょうか。

新提案は屋上屋の印象が拭えない

 ケリー大使は新提案を説明する記者会見で「脱炭素への移行を速める資金を投入するのが目的で、グリーンウォッシュと呼ばれる動きを抑制するセーフガードである」と強調しました。排出権取引に巨額資金を投入できる米国の有力企業に続き、チリや内ゲリアが参加する見通しを明らかにし、一年以内にスタートできるとしています。

 ケリー大使が提案した排出権取引制度を最初から「グリーンウォッシュ」と同列する考えはありません。ケリー氏は過去に上院議員、国務長官などを務め、2004年の大統領選挙で民主党の候補になった人物です。気候変動問題についても詳しく、その識見の高さは評価されています。

排出権取引の実効性が問われ続けている

 ただ、提案した排出権取引制度の実効性がよく見えません。排出権取引制度は1980年代から議論を深め、取引はされています。CO2を排出する企業などが一定の排出枠を保有し、実際の排出量が自社の枠内に収まりきれない場合は排出枠を満たしてない企業から未利用分の枠分を購入して埋め回せる発想です。排出枠を超える企業が存在していも、排出枠を残す企業からCO2を排出する枠分を購入すれば、目標としたCO2の排出量は両者の取引で差し引きゼロとなり、見かけ上は達成したことになります。

見かけ上のカーボンニュートラル

 しかし、今求められている喫緊の課題は、枠を超えて排出している企業や国が排出量を減らす努力と成果です。排出枠を残す企業や国はもともと地球環境の温暖化を招くほどCO2を排出しておらず、相互に排出枠のやりとりでカーボンゼロ、カーボンニュートラルと主張されてもCO2の排出削減が実行されているとは言い難いからです。

 今回のケリー大使の提案も実効性の低さを見てきた環境保護活動家からは「会計数字を利用したトリックだ」と批判を浴びていますが、否定できないのが現状です。

 ケリー大使はこれまでの経験と失敗を踏まえて、新制度の実行では参加企業に短期間の削減目標を設定してCO2排出削減の実効性を検証できるようにしたいと話しています。マイクロソフト、ペプシやアマゾンに続き、米国の世界企業が参加するはずですから、今回提案の制度は排出権取引市場で大きな存在感を持つかもしれません。

排出権取引の拡大は二の次。量の削減が最大の眼目

 しかし、この議論の経緯を見て分かる通り、排出権取引はビジネスの活発さに目を奪われてはいけないのです。取引権の金額が膨らんだから成功していると理解したら、それは金融ビジエンスの延長線上の理解です。排出権取引は金融ビジネスとしての拡大を期待することが二の次。地球全体のCO2排出量をどの程度削減できたのかを測るのが最大の眼目です。

 日本でも政府、経団連が排出権取引制度を改めて仕切り直ししてスタートする準備を進めています。一方で炭素税は見送りを決めていますから、国や企業のCO2の排出削減は排出権取引制度が主導する形です。しかし、1、2年すればすぐに問われます。日本の温暖化ガスの排出量は本当に減っているのか。

日本も足並みを揃えて実効性を提示して

 米国のケリー大使が提案した排出権取引制度をきっかけに日本も足並みをそろえて、実効性が期待できる運用を世界に提示して欲しいです。

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