ESG・SDGsと企業経営

ESG、SDGsに2つの顔、表はイケメン、裏は 役員報酬や従業員ボーナスの査定対象に

 ESG、SDGsが役員報酬や従業員のボーナスの査定対象に採用する企業が増えています。世界の大手会計事務所のプライスウォーターハウスクーパーズ(PcW)のホームページをみると、英国の主要株価指数のFTSE100銘柄うち45%がESGの目標達成度を役員報酬を算定する基準のひとつとして盛り込んでいるそうです。同じホームページでウィリス・タワーズ・ワトソン社のグローバル調査を紹介しており、取締役や経営幹部の78%が「ESGパフォーマンスの向上が財務パフォーマンスの重要な貢献要因となる」と回答しています。PcWは「金銭的インセンティブはESGアジェンダの推進に有用」と結論付けています。

欧米に続き日本でもESGを役員報酬の評価に

 日本でも三井住友ファイナンスグループが役員報酬に対する評価にESGの達成度を評価する項目を追加しました。2022年4月に役員報酬体系を見直し、サステナブルファイナンスと自社の温室効果ガスの排出量削減の目標達成率を設定。主要ESG評価機関による評価と照らし合わせて、賞与基準額の最大10%の幅で増減するそうです。

 ところが役員報酬とESGの評価を連動する広がりはまだまだ低調です。デロイトトーマツコンサルタントと三井住友信託銀行が毎年調査している「役員報酬サーベイ(2021年度版)」によると、経営戦略としてESG指標を組み込み、役員報酬の決定に活用している企業は3・8%。経営戦略として明示していないものの、ESG指標を役員報酬の決定に活用している企業は2・6%で、合計6・4%を数えます。全体の1割にも届きません。「ESG、SDGs」と毎日のように連呼される掛け声の大きさに比べると、かなり空回りしている現実がみえてきます。

ESGは株主からも要求される

 ESG、SDGsを経営戦略の主軸に置くため、気候変動に対応する経営を求める声が世界で高まっています。シェルやエクソンなど欧米の資源大手の株主総会では株主提案としてより強い経営成果を実行するよう要求されました。例えば世界最大の投資会社である米ブラックロックはエクソンの株主総会でIEAが提示した2050年までにカーボンニュートラルがどう事業に影響を与えるかを監査報告書としてまとめるように提案し、株主総会で過半を超える支持を得ています。

 ESGあるいはSDGsを企業経営に落とし込むのは至難の技です。地球温暖化に伴う気候変動に直面している今、考え方について反対する人は少ないでしょう。総論賛成といいながらも、果敢な取り組みを数値化し、効果を「見える化」するのはかなり難しいのです。例えば温室効果ガス排出の削減。ある企業が1企業だけで孤軍奮闘したとしても、他の企業がさほど努力しなければ産業全体の温室効果ガス排出への影響は微々たるものです。カーボンニュートラルは、「みんなで渡ると怖くない」と唱えなければ前進しません。

果たしてESGは客観的な査定はできるのか

 素朴な疑問です。ESGと役員報酬を連動しようという意気込みは理解できるのですが、客観的な査定をどう測定するのでしょう。自分で設定した目標にどの程度近づけたのか。その目標は自社のESG関連で設定しても、達成しやすい目標ならそれは自己満足とほぼ同じレベルです。役員報酬でもこうです。

 従業員のボーナスに反映させるのはなかなか難しいと思いますが、広がり始めています。花王、ソニーグループ、富士フィルムなどが採用しています。それぞれ設定に工夫を凝らしているようですが、基本は個人や会社が自身の目標を設定して、その実現度合いでボーナスを査定します。役員報酬と連動する会社全体のESGほど大袈裟ではないですが、個人に落とし込めばそれだけ周囲の目標に限定されます。プラスチック製スプーンを使わないなど数年前のレジ袋みたいなスケープゴートを改めて設定し、ESGあるいはSDGsだと主張する運動は、矛先を向けられた製品のメーカー同様、空疎で砂を噛むような思いを感じるだけです。

有料レジ廃止のようなスケープゴートは的外れ

 小学生のころに呼びかけられた「小さな親切」運動を思い出します。自分のできることは小さなことだが、社会全体で積み重ねれば大きな社会運動に広がると教えられました。今も異論はありません。ただ、有料レジ廃止などでプラスチック製品を減らす運動は首を傾げます。紙製品や木製に切り替えることに違和感はありませんが、特定の製品を排除する発想で地球環境の改善が進むわけではありません。わかりやすい例は必要ですが、本当に成果につながっているのか検証する視点は欠かせんません。

経営者は報酬と関係なく取り組むのが当たり前

 ESGを役員報酬やボーナス査定の評価点に組み込む発想は、有料レジの廃止と同一線にあると考えます。特に役員報酬を受ける経営者が今や重要な経営課題であるESGに取り組むのは当たり前のことです。成果を上げなければ経営者失格の評価を受けるべきです。

 街を歩いてたら、正面から見るととても近代的なビルに見えるのですが、少し横へずれると薄い板にしか見えませんビル。後ろへ回るともうひとつ違う建物がありました。それぞれの建物はきっと全く関係がないのですが、正面から眺める風景と後ろに回って立ってみる風景が全く違います。

 ESG、あるいはSDGsの運動は対外的な視線に答える形でわかりやすく提示、その姿勢を示したつもりでも、その舞台裏をよくよく見たら、成果は見た目ほどではない。流行言葉として上滑りするESGやSDGsはちょっと痛いです。

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