小麦粉は世界的な農産物の価格高騰、食料不足を象徴します。気候変動の影響を大きく受けるのはもちろん、ロシアによるウクライナ侵攻で明らかになった通り、戦争など政治不安が需給に直結します。
日本国内でも大幅な食品値上げが相次いでおり、その主因の一つとして小麦など農産物や食料油の値上げがあげられ、食品企業は消費物価高騰の主因と批判の矢面に立つ恐れもあります。価格動向が注目を集める小麦粉を視点に企業経営と地球環境を考えてみたいと考え、製粉最大手の日清製粉グループ本社をEco*Tenの視線で環境経営を分析してみました。
日清製粉は国内の小麦粉、正確には製粉市場の4割近くを占めるトップ企業です。ニップン(日本製粉から社名変更)、昭和産業、日東富士製粉と続きますが、シェア2位のニップンに対し15%程度も開きがありますから、製粉の価格主導権を握っているとみてよいでしょう。創業は1900年。ニップンが1896年ですから最古参の座は譲りますが、日本経済を支えてきた代表的な企業の一つといって間違いありません。2001年7月に会社分割して事業部門を子会社した持株会社へ移行し、傘下に製粉、加工食品、バイオ事業などを収めるグループ本社となっています。
直近の決算をみてみます。2022年3月期は売上高6797億円とほぼ前年並みとなり、営業利益は前期比8・2%増の294億円、経常利益は9・2%増の326億円と増益を果たしました。純利益は7・9%減の175億円と減益です。営業の推移は好調ですが、ニュージーランド、オーストラリアなどオセアニア地域のコロナ禍の影響を先取りし、減損損失を計上したため、純利益は減益となったと説明しています。
2022年4ー9月期も好調な推移を維持しています。売上高は19・3%増の3887億円、営業利益は2・3%蔵の159億円と増収増益。これに対し経常利益は1・2%減の172億円、純利益は377億円の赤字となりました。
純利益が大幅赤字に転じた理由はオーストラリアの業績悪化を踏まえ558億円の減損損失を計上したためです。主要事業は好調さを維持していますが、輸入小麦の価格はこの2年間で47%程度も値上がりしており、今後の製品価格の引き上げを考慮して、「値上げで儲けている」との批判を回避するためにもあえて純利益を赤字に転じたとの見方もありますが、価格高騰時によく言われる「あるある都市伝説」に近いかもしれません。
批判の矢面に立つ恐れもあるため、ESGなど企業の社会的責任のアピールが一段と重要な時期です。日清製粉が10月28日に決算と同時に発表した中期経営計画2026を軸にEco*Tenしてみました。
①透視する力;近未来をどう捉え、どのような対応が求められ、実行していかなければいけないか。見透す能力を評価します。=1点
2018年に長期ビジョンを公表しています。「新しいステージに向けて〜総合力の発揮とモデルチェンジ」と銘打った長期ビジョンを公表しています。未来へのコンパス(羅針盤)ととらえ、安全・安心、グループ総合力、活気ある企業グループの3テーマの実現をめざしています。「目の前のリスクを事業機会に変え、持続的な成長を果たしながら、生み出された新しい価値を社会へ還元する」この考え方を日清製粉は循環成長と呼んでいます。
4年前に作成していますから直近の地球環境保護の急速な高まりや世界の政情不安などが織り込まれていません。ビジョンの具体的な事例をみても、企業が近未来を見透す力の限界を感じます。
②構想する力;これから直面する状況を整理整頓して描き直し、対応できる計画を打ち立てる能力を評価します。=1点
2022年10月に公表した中期経営計画に入ります。基本方針は事業の再構築、ステークホルダー(利害関係者)の重視、ESGを企業経営に取り込むの3点です。ESGのうちでも世界の持続性に関わるE(環境)を最重要事項と位置づけ、省エネや再生可能エネルギーの導入などを検討。S(社会)については消費者の視点、人権課題の把握などを具体例にあげ、G(ガバナンス)は議論できる空気を守り、改善を行う風土を維持するとあります。目新しさはありません。
以下の3項目についても中期経営計画を参考に評点しました。
③実現できる力;目の前には難問が待ち構えています。対応する計画をどの程度実行できるのか。それとも絵に描いた餅か。=1点
④変革できる力;過去の成功体験に安住せず、幅広い利害関係者を巻き込んで新しい領域へ踏み出す決断力を評価します。=0・5点
⑤ファーストペンギンの勇気と決断力;自らの事業領域にとどまらず、誰も挑戦していない分野に斬新な発想で立ち向かうファーストペンギンの覚悟を持っているか。=0・5点
Eco*T en10点満点のうち4点
日清製粉は名門です。脇をしっかりと締め、社会が求める期待に答える努力を惜しまないものの、失敗が許されない製粉業界のリーダーです。そう簡単に挑戦的な試みを決断するわけにはいかないのでしょう。しかも、小麦など主力事業は海外からの輸入に頼るものも多く、事業展開も海外が3割程度を占めています。
今後もオセアニアやインドなどで海外事業は拡大するそうです。これまで以上に事業リスクは大きくなる一方で、ESGに対しても厳しい要求が突き付けられるはずです。環境意識が世界でも高いオセアニア地域ではまず間違い無いでしょう。世界最大の人口を擁するインドも中国を凌ぐ経済大国になる可能性が高く、ESGやSDGsの課題が増えるのは確実です。
日清製粉のEco*Ten=4点を考えると近い将来、目の前に立ちはだかるESGの壁に直面するかもしれません。名門企業の殻を打ち破り、もっと先取りする姿勢を前面に出して世界の食料問題、ESG・SDGsの考え方、対策を打ち出す必要性を痛感します。
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