もう10年前のことです。米国ニューヨークの近代美術館を訪れ、好きなカンディンスキーとピカソの絵画を見にいきました。久しぶりなので館内をぶらぶら巡っていたら、米国の新しい移住構想を提案するコーナーで足が止まりました。
ルービックキューブのように人材と才能を引き合わて妙み発揮
目の前にはルービッックキューブを模した移民政策を提案するボードが掲げられています。キューブを構成する小さな立方体に多くの才能を詰め込み、ゲームを楽しむのようにキューブを回して多種多様な才能を組み合わせます。予期しない人材との出会いをきっかけに、驚くようなアイデアやイノベーションを生まれるかもしれない。移民国家、米国ならではの斬新なアイデアです。
英国の清教徒が大西洋を渡り、建国に至る米国。多くの国・民族の人々が移民する一方、アフリカから奴隷として黒人が人身売買された歴史が積み重なっています。ボードではカリフォルニア州を中心にメキシコからの急増する移民問題、そこには不法移民も含めてでしょうが、米国全土でどう対応するかの問題が提示されているようです。地域的な偏りをどう是正するのか。かなりの難問です。それを難解で知られるルービックキューブで解決しよう。とてもクールな提案ですが、ニューヨーク近代美術館だからこそ展示できるアイデアなのでしょう。これが移民国家の米国の現実です。
シリコンバレーではクルーズ船を活用した「就労特区」構想
もうひとつ、おもしろい提案が隣にありました。米国西海岸のシリコンバレーへ優秀な人材を供給するため、カリフォルニア州沿岸にクルーズ船を停泊させ、客船の空間を「就労特区」として新設しようという構想です。米国の移民法は就労ビザを厳しく審査し、移民を制限し始めていました。
あのシリコンバレーなら世界から才能と野望を持った人材が集まり、人手不足に困ることはないと考えていましたから、意外な構想でした。客船は沿岸から19キロメートル離れた国際水域に停泊します。船上にいる限り、移民制限の政策に縛られない海事条約の範囲となり、入管法を気にしないで働くことができるという発想です。
住まいは対岸のサンフランシスコ。フェリで通い、船上で勤務する。「戦場のピアニスト」ならぬ「船上のIT技術者」です。ペイパルやフェイスブックに出資した米国でも著名なベンチャーキャピタリストのピーター・ティールが構想を進める新興企業に出資したそうですから、筋はよかったのでしょう。ただ法律上の問題解決ができたのかどうか。その後の結末は消えていますので、構想のまま終えたのかもしれません。
2022年夏、このクルーズ船を使った移民構想を思い出すきっかけがありました。萩生田経産相がシリコンバレーを訪れた際、5年計画で起業家候補1000人を派遣する構想を発表したのです。海外に優秀な人材を派遣するぐらいなら、「日本も海外から優秀な人材を受け入れなくちゃ」との思いを強くします。
しかし、日本の移民政策は固く閉ざしたまま。その扉はロシアのウクライナ侵攻に合わせてわずかに開きかけていますが、まだまだ狭く、遅すぎます。こんなスピードでは日本の移民政策は世界から完全に取り残されます。
増え続ける限界集落を外国移民のGenkaiに
日本にクルーズ船に代わる受け皿があるじゃないですか。限界集落です。全国には65歳以上が人口の50%を超える限界集落は全国で16000近くもあり、集落全体に対する比率は20.6%です。10年前に比べて5000以上も増えています。日本の人口はどんどん減り続けており、とりわけ地方の人口減のスピードは猛烈としかいえません。過疎化という言葉で言い表されないほどの人の姿が消えています。
空き家と土地はたくさんあり、まだまだ増えます。移民の受け皿に使いましょう。情報通信の発達でリモートワークが当たり前になっています。実用効果はコロナ禍で実証済みです。やる気と技能を持った移民が集まる人材特区「Genkai集落」を設置し、地方のネット環境の拡充と連動させて「人材力」を一気に高めることができます。
生活支援はもちろん、充実させます。住居や生活費の補助を一定程度提供するほか、就労ビザの範囲も従来に比べて特例を増やす工夫が必要です。就労できる職種は日本が必要とする才能と人材を考慮して絞れば良いと思います。わかりやすさでいえば情報技術や半導体など最先端技術の技術者からスタートする手もあります。
Genkai集落は当初、数カ所で始め、実績を精査しながら地域を拡大していきます。最終的には全国各地で実施できる流れに広げ、それが日本全体に行き渡る、つまり日本が移民政策で脱皮する後押しになれば良いのではないですか。成功例、失敗例はかならず発生します。試行錯誤を重ねながら、骨格は変えずに教育や生活支援などは地域に合わせてバージョンを設定する自由度と幅を持たせることも有りです。でも、スピード感覚は忘れたくない。1年、2年の単位で改革を実践します。
Genkaiには無限の可能性が考えられます。
日本の人口は出生率の低さを考えれば、21世紀中に増加へ転じるのはほぼ不可能です。このままでは経済が縮小するだけでなく、日本自体が衰弱するのは間違いありません。一方で世界の人口は70億人を超え、増え続けます。戦乱などやむを得ない事情で祖国を離れる人材を日本に住んでもらい、その才能とやる気を発揮してもらう。
日本の活力は維持するためには、世界中からエネルギーを集めるしかありません。Genkai集落にはある程度の制約が避けられませんが、可能性は無限です。日本の限界集落を海外の人々によるGenkai集落に進化させ、日本の限界を突破しましょう。
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