Eco*nomy

合成燃料 カーボンニュートラルの脇役が主役へ 日本の産業政策が試される

 日本の政策力が問われる時代が到来しました。欧州連合(EU)が自動車用エンジンの燃料として環境負荷が低い合成燃料の利用を正式に決めました。合成燃料の研究開発、実用化はすでに始まっていますが、生産や供給体制の整備などはこれから。同じ自動車立国である日本がどのような産業政策を展開するのか。立案・実行の国際競争力が試されます。ここはチャンス到来と捉え、後手に回っていた産業政策を一新し、合成燃料の実用化に弾みをつけましょう。

政策力で実用化に弾み

 なにしろ、欧米や中国はEVに切り替わる勢いだったのですから。e-Fuelやバイオ燃料など合成燃料は、ガソリンやディーゼルに代わって利用されたとしてもあくまでも主役はEVで、脇役の位置付けでした。

 ところが流れが大きく変わります。EUは2035年に新車販売をすべて電気自動車(EV)に切り替え、エンジン車の販売を禁止していましたが、ドイツなど自動車が基幹産業である国々が合成燃料の利用を求める動きが広がり、この圧力に押し切られた格好です。

CO2の回収・利用を加速する好機

 合成燃料といってもさまざま。経済産業省・資源エネルギー庁のホームページによると、「CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料です。複数の炭化水素化合物の集合体で、 “人工的な原油”とも言われています。」と説明しています。

 原料は発電所や工場などから排出されたCO2を利用するほか、大気中のCO2を直接分離・回収する技術を使い、CO2を資源として利用する「カーボンリサイクル」として主軸に想定、脱炭素燃料と位置付けます。航空エンジンなどにではバイオ技術を利用した合成燃料がすでに実用化されています。

 EUは合成燃料の利用に向けて、燃料の基準や利用条件を定義する作業を開始します。ただ、欧州各国のエネルギー事情も違い、生産過程や原料などのすり合わせは大変との見方が多いようです。ちなみにバイオ燃料は認めないとしています。

 自動車メーカーのうちVWグループのポルシェがすでにチリで合成燃料の生産工場を稼働させています。。日本もトヨタ自動車やホンダなども研究に取り組んでいますが、解決すべき課題は残っています。

課題は価格や生産体制

 まず値段が高い。資源エネルギー庁の試算では再生可能エネルギーが普及している欧州などで生産すると、1リットル300円程度。再生エネが増えている段階の日本では700円程度だそうで、とてもガソリン価格に代替できるレベルではありません。

 生産体制も整っていません。製造工程で必要な電力はCO2を排出しない再生エネの利用を前提にしています。太陽光や風力による発電が盛んな欧州でもフランスは原子力発電が主体だけに、合成燃料の生産で劣勢。増して日本はさらにハンディキャップが大きくなります。

 だからこそ日本の産業政策の立案力と実行力に期待したい。合成燃料が普及すれば、日本の自動車産業にとってもエンジン関連部品メーカーの経営に好影響を与えるうえ、資源の大半を輸入に頼っている資源小国の劣勢を挽回できます。エネルギーの安全保障のうえでも大きなメリットを考えられます。

原発頼みのカーボンニュートラルを打開

 日本のカーボンニュートラル政策にも寄与します。2050年の目標に脱炭素を掲げたグリーン成長戦略を公表していますが、原発に大きく依存した計画です。原発の再稼働や新増設が前提になっていますが、現実問題としては達成不可能と考えるのが妥当です。

 合成燃料の実用化に舵を切り、CO2の回収・再利用の道を切り拓くことは、足踏みを続ける原発政策を横目に新たな対応策になります。原発推進に固執せず、合成燃料も念頭に再生エネや脱炭素に向けたグリーン成長戦略のシナリオを書き改める好機です。合成燃料はもう主役級の扱いで考えて良いでしょう。日本政府の政策力とともに決断力にも期待したい。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 三井不動産「街と人の外苑」よりも「明治神宮の内苑」を最優先

  2. 女性の「ガラスの天井」は世界第3位 大企業と中小企業、東京と地方の格差が足かせに

  3. 再生ファンドの主宰者が学校経営 尻すぼみのESG・SDGs投資を活性化する試金石になるかも

  4. フランスの「助け合い商店」 貧富の格差を住民同士が互いに補完

  5. 缶チューハイが企業の倫理観を試す 利益に酔えない商品開発、マーケティング

  6. SOMPO 櫻田会長・辞任 経営の信用を補償する保険はない

  7. 1強ゆえの傲慢が生んだ経営の歪み、エネオス経営トップが連続で女性へのハラスメントで辞職

  8. 街は創るものなのか、創られるものなのか 三井不動産の「宮下公園」が教える足りないもの

  9. 「1・46度」の警鐘 努力目標の上昇気温1・5度に迫る 終末時計は刻み続ける

  10. 実行力を問われるCOP28 理想を手にできるのか、それとも画に描いた餅に

  1. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  2. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  3. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  4. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  5. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  6. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  7. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  8. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  9. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  10. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

月別のアーカイブはこちら

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP