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国際司法裁判所 気候変動対策の義務を勧告 後退りする世界へ警告

 驚くべきことではないにもかかわらず、驚いてしまう事実に時代の変化を痛感します。地球温暖化を抑えるための気候変動対策を裁判所から勧告を受けるなんて思いもしませんでした。他人を危害を加えてはいけない。こんな当たり前のことを判断するのが裁判所ですから、猛暑が続き、台風や大雨など大災害に襲われる毎日が続く今、裁判所から「気候変動対策しないさい」と諭されるのも仕方がないことです。当たり前のことをフェイクだと米国大統領が叫ぶ時代を過ごしているのですから。

米大統領はフェイクと叫ぶ

 オランダ・ハーグの国際司法裁判所が国際法のもとで各国が温室効果ガスの排出削減など気候変動対策をとる義務を負うとする勧告的な意見を出しました。2023年に国連総会が採択した決議にもとづき、国際司法裁判所が初めて取りまとめたものです。法的な拘束力はありませんが、アメリカのトランプ政権が気候変動対策に消極的な姿勢に転じているだけに、ちょっとだけでも背中を押してくれた印象です。

 国際司法裁判所の岩澤雄司所長は「気候変動の影響は深刻で広範囲に及ぶ。緊急かつ存続に関わる危機を浮き彫りにしている」として各国が温室効果ガスの排出量の削減など気候変動対策をとる必要性を指摘しています。

基本的人権を守るため

 判断の底には基本的人権があります。誰もが自分自身らしい生活を送りための基本的人権を守るため、すべての国は環境保護に努め、協力する義務があると強調します。「この困難な問題を完全に解決するためにはあらゆる分野での人類の知識の貢献が必要だ。気候危機に対処するための社会的、政治的行動が促されることを期待する」と述べています。

 国連のグテーレス事務総長は国際司法裁判所の勧告的な意見について「すべての国が国際法のもとで地球の気候システムを保護する義務を負っていることを明確にするものだ」と歓迎するコメントを発表しました。これまでも「地球は沸騰している」という表現を使って緊急に対策を講じるよう訴えています。

ツバルなど島嶼国は存続の危機

 気候変動の影響を議論する必要はないでしょう。1997年の京都議定書、2015年のパリ協定を持ち出すまでもなく、国連はじめ多くの会議で世界は地球温暖化阻止に向けて一致して行動を起こすことを決議しています。

 しかし、気候変動の主因であるCO2など温暖化ガスを大量に排出している国々の動きが鈍いのも事実です。米国、ロシア、中国、インドなど経済大国にとって、経済発展と気候変動はまだ相反する政策です。

 バイデン大統領が退き、代わって復権したトランプ大統領は、石油や石炭などCO2を排出する化石燃料を「どんどん掘れ」と煽る一方、電気自動車などの普及を阻害する対策を打ち出しています。中国やインドなど大量排出国も、原子力発電所の建設を増やす計画を示していますが、実際は石炭火力発電などの比率が大きく、脱炭素に向けた道筋はよく見えません。

日本も観測史上初めての異常気象

 だからといって、傍観する時間は残されていません。南太平洋の島嶼国は海面上昇によって国土を失う可能性がどんどん高まっています。ツバルの人々はオーストラリアへの移住を希望しており、国土存続の危機に追い込まれています。

 日本も同じです。気候が大変動しています。線状降水帯の発生で降水量は観測史上初めてといわれる大災害が頻発。北海道の北見市や釧路市などで40度近い気温まで上昇、全くあり得ない異常気象が頻発しています。

 国際司法裁判所の勧告は、国や地域を問わず人間が日常生活を維持できるかどうかの警鐘です。裁判所から催促されるなんて、なんとも寂しいですが・・・。

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