伊藤忠商事が日本で初めてオレンジボンドを発行します。女性が活躍できる場を広げるなど性差別解消を目的にした社債です。日本企業がオレンジボンドを発行するのは初めてだそうです。オレンジボンドに注目したところも素晴らしいですが、伊藤忠の岡藤正広会長CEOが繰り出す企業イメージ形成、さらに社員のやる気を引き出す人心掌握術に舌を巻きます。「三菱商事、三井物産に負けるな、追い抜け」。そんな掛け声が聞こえる岡藤会長を見ていると、企業経営の面白さと躍動感を覚えます。
日本初の発行
オレンジボンドの発行額は152億円。発行条件は年限が3年で利率は1・11%、国債利回りに対する上乗せ幅(スプレッド)は0・17%。9月11日に発行します。債券の格付けは伊藤忠が発行するので、2番目に高い信用力と評価されるダブルAクラス。
調達した資金は、女性が活躍する企業、女性の健康に関する新技術に取り組むフェムテック企業、さらに伊藤忠社内の女性社員らを対象に出産や育児の支援事業に注ぎます。
具体例としてグアテマラからコーヒー豆を調達する企業、女性支援や採用を積極的に行っている企業などを挙げています。出産や育児の支援では卵子凍結保管、不妊治療、託児所整備、周産期医療を提供するクリニックの運営などを想定。フェムテックも、サービスや製品を扱う企業との取引を拡大します。
ESG債のひとつ
オレンジボンドはESG債の一種です。環境、平等社会、企業統治の3点を重視する債券で、気候変動対策を中心にするグリーンボンド、海洋の環境保全を目的としたブルーボンドなどがあります。日本企業は海外に比べて女性の活躍度が世界最下位に近い水準です。オレンジボンドを発行せずとも、どんどん女性が活躍する企業が増え、日本経済に活力を加えてほしいです。
それにしても、岡藤会長が次々と打つ伊藤忠活性化策には感心します。総合商社の中で三菱商事、三井物産に続く万年3位と言われていました。三菱、三井に比べて石油・ガスなど資源関連投資が少なく、食料や衣料など日用品関連が事業の中心だったためです。岡藤会長は、大胆な事業投資を決断して利益額で三菱、三井を追い抜く目標を掲げ、実践しています。
年収でも三菱、三井に負けない
総合商社の資産は人材です。やる気を引き出す年収の引き上げも注力しています。平均年収で三菱、三井に続く平均1800万円程度ですが、2024年9月に役職や成果によって課長級が3620万円、部長級で4110万円にまで増える人事制度を設定しました。仕事の醍醐味は年収だけではありませんが、意欲を刺激するのは間違いないでしょう。裏返せば、高年収に食いつかず、仕事をこなすだけの人材は不要と突きつけているようです。
日本で初めてオレンジボンドを発行することは「伊藤忠はカネだけで人材を釣るわけではない」と言っているかのようです。いかにも派手なパフォーマンスが得意な岡藤流の極みといえそうです。
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