ESG・SDGsと企業経営

世界最大の投資会社ブラックロックで活躍した専門家がESG投資に疑念、環境と金融の次のステージとは

 世界最大の投資会社、ブラックロックで辣腕を振るったテレンス・キーリー氏がESG投資に関して疑問を投げかています。ブラックロックはここ数年、環境やESG・SDGsを投資判断する基準に据えて世界の大企業に経営の変革を呼びかけています。ところが、同社でESG投資アドバイザーとして活躍していた人物が一石を投じました。ESG投資は世界で急速に増加していますが、投資成果について首を傾げる専門家が相次いでします。今度のキーリー氏の問題提起も見逃せません。

プロの世界でも高く評価されたブローカー

 キーリー氏は最近、「サステイナブル」と題した自著を発売しました。1980年代から投資ビジネスの世界に入り、2022年7月にブラックロックを退社するまで財務省、中央銀行なども含めた機関投資家、超富裕層、大学など多岐にわたって世界の投資案件に携わっています。著作の序文にブラックロックのCEO、ラリー・フィンク氏が投稿しているのですから、その実績と評価は凄いのでしょう。

 なにしろ環境関連の投資や寄付などでたびたび登場するビル・ゲイツ氏らが運営する財団も担当しているぐらいですから、アドバイザーの中でも指折りです。2021年には「CIO(チーフ・インベストメント・オフィサー)」と呼ばれる組織から投資家と投資案件を結びつける最も優秀な「ナレッジ・ブローカー」の1人に選ばれています。

 キーリー氏は著作で「ESG投資は機能していない」と断じます。自身の経験からESGを主旨に運用した投資のリターンは期待通りの結果を生まず、投資先の企業経営をESGに向けて後押し、あるいは変革する触媒としての役割は果たさなかったと考えています。企業経営を実際に変革するためには、細部に渡って経営に関わる投資の手法に切り替えなければいけないと説きます。

ブラックロックCEOも問題提起は歓迎

 同氏が今年7月まで所属していたブラックロックは世界で運用する投資基準としてESGを中心に据え、世界の投資の流れをリードする存在です。実際、株主総会などを通じて経営の変革を通じて地球環境や気候変動への実践を求め、今後の投資の行方も積極的に発信します。キーリー氏は著作でESG投資を否定しているわけではありませんが、著作を通じてブラックロックの経営方針に対し問題提起した形です。

 ブラックロックCEO、ラリー・フィンク氏はキーリー氏の著作の序文で功績を高く評価しながらも、彼の問題提起については同意していません。ただ、ESG投資に関する検証はさらに進める必要がある考えを示し、キーリー氏の著作がさらに議論を深まることは歓迎したいと表明しています。

ESG投資は120兆ドルを超える規模に

 ESG投資は欧米を中心に急増しており、すでに120兆ドルを超える資産規模に拡大しています。投資リスク、損得などさまざまな思惑が入り混じっている金融の世界ですから、すべての投資がESGを体現し、推し進める理想的な案件とは誰も考えていないでしょう。しかし、ESGやSDGsを名目に集めた巨額資金が本来の趣旨とかけ離れた分野で使われ、損得勘定されるのはとても残念です。それは資金を集める企業、募集し運用する機関投資家いずれも同じ思いなはず。

検証、精査に拍車を

 これまでもESG投資の実効性を問う意見が目立ってきましたが、裏表を知り尽くしている投資のプロフェッショナルであるキーリー氏が、しかも直前までESG投資の旗を振っているブラックロックのベテランアドバイザーが著作で示した問題提起のインパクトは誰も無視できません。これを機会にESGやSDGsに関連した投資や融資が実際にどう使われているのか、その後の成果はどうだったのか、検証、精査する動きが広がって欲しいです。

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