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優良格付けの落とし穴 あの花井組がディスコなどと並んで経産省の健康経営優良法人に

 企業の優劣を計る「格付け調査」は改めて難しいと痛感する事実でした。

 あの「花井組」が経済産業省の「健康経営優良法人」に認定されていました。「花井組」とは札幌市西区の建設会社で、社長が社員に日常的に暴行していた映像が拡散しています。対外的には社会や従業員に対し心配りする会社というアピールに努力していたようです。地元の札幌市は「札幌SDGs企業登録制度」など社会貢献や社員に対する福利厚生で5つの登録、認証を与えています。

精査に調査しているとはいえ・・

 健康経営優良法人は経産省が2016年度から始めた制度で、産業医、保険者、投資家が参加する基準検討委員会が「法令遵守・リスクマネジメント」を前提に「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」の視点で経営者から現場まで実践できているかを評価します。上位500社が最優良ランク「健康経営優良法人」として認定されています。

 企業はESG、SDGsの視点を重視する経営に軸足を移し始めているうえ、大卒など若手人材を採用するためには社員の福利厚生を充実させています。経産省としては「健康経営」というキーワードで字面だけが踊る上滑りなESGやSDGsにならないよう中小企業も含めた経済界にPRするとともに、質の底上げを狙っています。 

 そんな狙いを裏切る暴力行為が横行する花井組が、なぜ「健康経営優良法人」に選ばれてしまったのか。健康経営など企業経営に優劣をつける「格付け調査」の難しさを炙り出しました。

落とし穴はいくつも

 調査の落とし穴は、まず方法にあります。認定を得るためには申請が必要で、認可を審査する調査票は企業の概要、社長の健康に対する考え方、実施している制度・施策、健康診断の結果などかなり細部に渡って質問しています。調査の集計は日本経済新聞社グループの日経リサーチが担当しており、企業調査の実績は豊富で信頼性の高さで評価されている会社です。

 ただ、調査票には限界があります。調査票が現場の実態を反映するわけではありません。嘘偽りを書き連ねているとまではいいませんが、優良企業であるとの対外的な評価を得たいと考え、現実とはかけ離れた企業姿勢や数字を記入する企業があります。調査会社もその虚実を見抜くため、調査票に数多くの項目を記入してもらい、回答内容から辻褄が合わない数字や事実を発見し、評価を下すわけです。

 ただ、現場をどこまで取材できているか。膨大な数にのぼる申請数をすべて現場チェックすることは不可能です。申請企業が活動する地域の評価を取材するとしても、札幌市が騙されるぐらいですから正確に把握することは無理でしょう。基準検討委員会があるとはいえ、しょせんは調査票から得られたデータが基になります。野球でいえば、ストライクゾーンに入っていれば認可するしかありません。

数合わせも問題

 まだあります。認定・登録法人の数合わせです。経産省が肝入りで始めた健康経営優良法人が全国で数十社程度で収まってしまっては面目丸潰れ。厳密に調査した結果、日本の事業所のほとんどを占める中小企業が大幅に少ない結果が出ることは許されません。各地域のメンツもあります。東京など関東が多くて、北海道が少ないなんて格好悪い。全体として認定する法人が少なければ、予算取りにも支障を期待します。

 ちなみに2025年3月に発表した「健康経営優良法人2025」には大規模法人部門で3400社、中小企業法人部門で19796社が選ばれています。上位500社は「ホワイト500」の冠を与えられる名誉を受けます。受賞した企業はその冠を使え、自治体や金融機関からいろんな恩典が受けられるそうです。2025年3月に発表した認定法人の数字を見れば、失礼ながら玉石混交は覚悟しなければいけないしょう。

 花井組は中小規模法人部門で認定されていました。全国健康保険協会北海道支部は2022年健康優良法人「中小規模法人ブライト500」の好例として紹介しています。従業員の健康調査、 禁煙率100%の実行 、メンタルヘルスに力を入れ、毎週水曜日をノー残業デー、有給休暇の取得と周知を進めるとともに、心と家族の健康づくりでは家族同伴バーベキューなどを開催しています。

 素朴な疑問は残ります。「人の口に戸は立てられません」のことわざがありますが、暴力行為などハラスメント情報は誰の耳にも届いていなかったのでしょうか。

「花井組」はまだある

 諸事情を割り引いたとしても、国や自治体など公的な認定・登録制度は元々、無理があるのです。新聞社の場合は、対象となる企業を実際に取材している記者を通じて社内の空気、社員の声などを確認して判断しますが、それでもさらに精査する姿勢を忘れるわけにはいきません。調査票から得られる結果と現場が食い違う事例はかならずあります。

 経産省などが「優良」とのお墨付きを与える制度なら、なおさら現場取材が必要です。過去の事例に「花井組」に続く事例がまだ隠れているかもしれません。花井組が身をもって証明しています。

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