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もう25年間も漂い続ける排出量取引 東証で実験開始 炭素税の代替?

「二酸化炭素(CO2)の吸収量がついに排出量の一割を超えることが確実になりました。二〇一〇年、日本最大の自動車メーカーであるX自動車の東京本社。テレビ会議でつながったインドネシア・ボルネオ島の駐在事務所からの報告を受け、地球温暖化対策室は歓声に包まれた。(中略)地球温暖化対策室長は「乾いたぞうきんを絞るのはもはや限界、あの時は日本でモノづくりができなくなると覚悟したよ」と振り返る。

 日本経済新聞社が1999年4月に出版した「環境経営 ゼロマネジメントへの挑戦」の第Ⅳ章「CO2ビジネス始動」の冒頭エピソードです。1997年12月、京都で開催した地球温暖化を議論した国際会議(CO3)では先進国にCO2削減の数値目標が設定され、排出量を取引するビジネスが認められました。翌年のブエノスアイレスで開催したCO4は排出量を取引する運用規定も2000年に決める方針がまとまり、CO2の排出量を売買するビジネスが動き出しました。

25年前に予見した風景がまだ見えない

 「ゼロマネジメントへの挑戦」は出版当時から見て近未来である2010年の日本が取り組むであろうCO2ビジネスを予見し、植林や排出量枠を売買する制度についてリポートしました。

 それから25年過ぎた2022年9月22日。経済産業省は企業が保有するCO2の排出枠を売買する「排出量取引」と呼ぶ制度を東京証券取引所で実証実験を始めます。排出量取引は2021年の菅政権がぶち上げた2050年のカーボンニュートラル実現の柱となる政策と位置付けており、排出量に応じて企業がコストを負担する「カーボンプライシング」が導入できるかどうかを検証するのが狙いです。

東証で120社が実証試験に参加

 実験には120社程度が参加し、企業が再生可能エネルギーの導入や植林などを行って、二酸化炭素の排出量の削減を達成した分を市場で売買できるようにします。25年前は企業がそれぞれ排出する量を決め、その枠の過不足を売買する表現として「排出権」と呼びましたが、現在は企業が何か権利を持っているかのような誤解を避け、排出量という表現を選んだようです。今回の実証実験で売買が活発になれば、取引が成立する価格が定まります。この取引価格が公開するそうです。経産省は23年3月末まで実験を続けて、売買実績から問題点などを洗い出し、23年4月から本格的な運用を考えています。

 CO2の排出量取引は欧米でかなり盛んに行われています。それはそうです。25年前に京都のCOP3で国際的に始動したプロジェクトです。日本も自動車はじめ多くの大手企業が参加を検討して植林などによるCO2削減の対策を始め、排出量取引への下準備に入っていました。しかし、日本の景況が低迷し続け、CO2削減の動きは形骸化していまいました。文字通り、どこかに吹き飛んでしまったかのようです。

経団連などは炭素税を避ける代替案に?

 経団連はじめ産業界は欧米で導入が議論されている炭素税は避けたいというのが本音です。炭素税は企業が排出するCO2の量に応じて課税する発想です。企業収益を短期的に圧迫する可能性が大きいと判断しています。排出量取引制度は炭素税を阻止したい代替案として経団連などは推奨しています。CO2削減を声高に叫びながら、経営への打撃を極力抑えるにはどうするか。25年前に繰り広げられたCO2ビジネスの再現劇が始まらないことを祈っています。

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