「下請けいじめ」は国が本気を出せば、改善できる。そんな希望を持てる結果が出ました。経済省の中小企業庁と公正取引委員会が二人三脚のように繰り出す「下請けいじめ」改善策は功を奏しています。いつも国会答弁などでやる気をみせても、実際は中途半端で終わる国の政策に慣れているせいか、その成果には新鮮に驚きます。
経済産業省の中小企業庁は2021年9月から毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」として発注企業と下請け企業の取引状況を公表していますが、2025年3月の現況は、大きく改善しています。
今回の調査は6回目で6万5725社が回答。調査項目は価格交渉、価格転嫁に支払い条件を加えました。各項目の評価は下請け企業による採点で4段階に分かれ、7点以上がア、7点未満4点以上がイ、4点未満0点以上がウ、0点未満がエと分類されています。
価格交渉・転嫁で最低評価はゼロに
まず驚いたのは、価格交渉、価格転嫁で最低評価のエと下された企業はありませんでした。過去の調査ではかならず0点未満の最低評価を得た企業はありました。タマホームなどテレビ広告を盛んに流し、販売を伸ばして急成長する企業が目立ちました。中小企業庁の調査結果で下請けの中小企業から利益を奪っているとの批判を浴び、改善に努めたようです。
といっても、価格交渉・転嫁で4点未満0点以上のウの評価を下された企業は多く、ゴールはまだまだ遠いのが実情。長年の商習慣を理由に契約より低い価格で納入を迫ったり、支払う事例が当たり前のようにあったのは事実です。この悪弊を完全に解消するためには、大企業の社会的責任に対する自覚が求められます。
支払い条件で最低は15社も
残念ながら、世間の厳しい目を逃れるために改善した企業は多いようです。今回の調査で新たに加えられた支払い条件の項目では最低評価を下された企業が15社もあります。価格交渉・転嫁は公表されるので、改善に努めたものの、新たな支払い条件で図らずも隠しきれないボロが出てしまったのでしょう。
支払い条件で最低評価の15社のリストは以下の通り。
▽古川産機システムズ▽パナソニックAP空調・冷設機器▽新日本建設▽三協立山▽芝浦機械▽SMC▽テルモ▽シャトレーゼ▽イワタボルト▽一建設▽三菱鉛筆▽牧野フライス製作所▽共和コンクリート工業▽住友住機械工業▽セーレン
中小企業庁によると、現金支払いをやめて手形などで代金を支払ったにもかかわらず、手形の交付から支払いまでの期間が60日を超え、しかも手数料に相当する「割引料」を受注企業に負担させた企業もありました。かなり意図的で、悪質です。
公取委も後押し
やはり、公正取引委員会の役割は重要です。中小企業庁と連動するかのように下請け企業に対する優位的な立場を利用した不正取引を独占禁止法の違反すると摘発しています。
背景には急務となっている中小企業の賃金引き上げがあります。大企業に比べ中小企業の賃上げが低いのは、発注する大企業が優位的な立場を利用して購入価格、支払い価格を不当に引き下げることがあります。従業員に対し賃上げしようにも、大企業から毟り取られれば収益率が低いまま。当然、賃上げ余力は低下します。
公取委はここ数年、積極的に摘発しています。トヨタ自動車グループのデンソー、豊田自動織機製作所を例に見てみます。
2022年12月。公正取引委員会は下請け企業との価格交渉で独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当する恐れがある13の企業・団体を公表しました。違反を認定しているわけではないものの、公表によって発注企業に警告を発し、下請けの中小企業の経営を改善させる意図でした。そのリストにデンソー、豊田自動織機製作所がありました。公取委は4030社に対しても注意するよう文書を送りました。
13社・団体は次の通り。
デンソー、豊田自動織機、佐川急便、ドン・キホーテ、丸和運輸機関、三協立山、三菱食品、三菱電機ロジスティックス、日本アクセス、トランコム、大和物流、東急コミュニティー、全国農業協同組合連合会(JA全農)(順序不同)。
デンソーはトヨタ系列を代表する日本最大であり、世界でもトップクラスの自動車部品メーカー。豊田自動織機はトヨタ自動車を生んだ祖業、源流です。この2社はトヨタそのものを体現しているといって良いほどです。トヨタ同様、収益力は群を抜いています。
トヨタは大変身
公取委はトヨタ自動車こそ名指ししませんでしたが、デンソーと豊田自動織機の2社を「優越的地位の乱用」と公表することで「われわれは取引実態を詳細に把握しているのだ」とトヨタのみならず、アイシンなど系列大手に警告を発したと考えて良いでしょう。
中小企業庁、公取委が発する警告はトヨタグループへ衝撃を与えています。
中小企業庁が公表した2025年3月時点の調査でトヨタ自動車は価格交渉、価格転嫁、支払い状況いずれもアの評価です。豊田自動織機もトヨタと同じで、すべてアの評価。デンソーは価格交渉と支払い条件でア、価格転嫁でイ。
驚いたのはトヨタグループ、そして取引が多い企業が軒並み、すべてアの評価を得ていることでした。トヨタ車体、トヨタ自動車東日本、豊田通商、豊通マシナリー、ジェイテクト、愛三工業、東海理化電機製作所、フタバ産業と有力系列企業がずらり。取引関係では日本碍子、日本特殊陶業。自動車メーカーでも資本関係があるSUBARU、いすゞ自動車、スズキ、日野自動車が続きます。
トヨタグループの変身ぶり、手のひら返しを見るだけでも、中小企業庁、公取委の二人三脚が大きな効果を上げたことがわかります。これからも頑張ってください。
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