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「COP30は賞味期限切れ、パリ協定は消費期限切れ」で良いのか

 この10年間で最も大きな温度差を覚えます。2015年、気候変動の国際的な連帯を強化したパリ協定が採択され、脱炭素の取り組みは加速すると誰もが信じていました。ところが、2025年に開催したCOP30には当時の熱気は消え失せています。パリ協定の目標は世界の平均気温上昇を産業革命以前よりも「1・5度に抑える努力を追求すること」でしたが、残念ながら脱炭素に取り組む世界の熱意だけが1・5度以上も低下しています。

10年間で熱意は冷え込む

 地球温暖化の防止策を協議する国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)が11月10日から21日までブラジル・ベレンで開催されました。ベレンはアマゾン川南岸にある大都市です。この都市でCOP30を開催するブラジル政府の意図は明白です。経済優先だったボルソナロ前大統領を追放したルラ大統領はアマゾン川流域の自然保護を世界に訴えることにありました。

 アマゾン川流域には世界最大の熱帯雨林が広がり、温室効果ガスの二酸化炭素を酸素に還元する「地球の肺」と呼ばれるほどですが、開発の名の下で伐採が進んでおり、森林面積は急速に減少しています。広大な熱帯雨林が衰えば、ブラジルのみならず地球全体に大きな影響を与えます。

 しかも、今年のCOPは歴史的な意味合いが強い。国連主導の気候変動対策を討議したCOPをドイツで開催してから30年目。さらに2015年、1997年のCOP3で採択した京都議定書の成果を基により具体的な目標を掲げたパリ協定がスタートしてから10年を迎えました。

米国、中国、欧州は後退

 COP30までの取り組みは、欧米や日本、中国など世界各国の政策転換を促してきました。CO2など温室効果ガスを排出する化石燃料を使用する火力発電所の新設を抑制する一方、太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電が急増し、電源エネルギーの転換が確実に進んでいます。発電所と並んでCO2を大量に排出する自動車や航空機でも、電気自動車(EV)への移行、SAFなど植物由来の新燃料の利用を増やしています。

 しかし、気温の上昇は止まりません。パリ協定は気温上昇幅を産業革命前の水準から1・5度以内にとどめることを目指していましたが、世界平均気温は1・5度を超えるのが現実です。

 より深刻な現実は政府の姿勢です。温暖化をフェイクと呼ぶトランプ米大統領はパリ協定からの離脱を再び宣言しています。温暖化ガスを大量に排出する中国は再生可能エネルギーやEVの利用拡大などで脱炭素の努力をアピールしますが、温暖化ガスの排出量は今後も増え続けるのが実情です。

 欧州も腰が定まっていません。再生可能エネルギーやEVを推進してきましたが、エンジン車からEVへの転換を修正するなど「現実路線」へ舵を切り始めています。日本は再生可能エネルギーを急増させたものの、狭い国土に山地が占める自然条件から新設する適地が不足しており、原子力発電所の新増設しか切り札が見当たらない状況です。

論点が資金供与に

 COPで議論されるテーマも先進国から途上国に提供する気候変動対策資金が中心になってしまいました。年1000億ドル(約15兆円)が資金規模とされていましたが、COP30では3000億ドルと3倍に増える目標が議論されます。

 COPの焦点が拡散しているとはいいません。経済成長と地球温暖化の共存がいかに難しいかを思い知っただけです。しかし、気候変動が進めば進むほど、人類の未来はより息苦しくなることも事実です。

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