「企業活動と地球環境は共生はできるか」。地球上で生活する人類が企業活動を通じて自らの存在を危うくする地球環境を破壊してよいのか。「破壊して良い」と誰も答えるわけがありませんが、「まだまだ遠い先の未来の話」、あるいは「少しぐらいの破壊なら、自らの生活水準を犠牲することのほどではない」と納得するかもしれません。
まして普段の生活は企業に勤め、手にする給料に支えられています。勤務先の企業が地球環境の保全に努力した結果、収益が大幅に低下してしまい、自身の給料が減る窮地に追い込まれたら「地球環境が大事なんて言ってられるか!」と憤慨する人は多いはずです。
地球環境の保護は建前、本音は?
企業と環境の共生は「総論賛成、各論反対」の典型です。総論を国や自治体の環境保護政策に見立てれば、真っ向から異論をはさむ人は少数派でしょう。ところが、規制強化など企業活動を制約する具体的な政策に踏み込むと、反対は一気に膨れ上がります。
化学メーカーのチッソが引き起こした水俣病を思い出してください。チッソが九州の不知火湾に垂れ流す有機水銀が周辺住民に深刻な病状を引き起こすとわかってからも、政府や水俣市、そして一部の住民はチッソの責任追求を怠っていました。日本を代表する化学メーカーであり、九州の地域経済を支えるチッソが倒産でもしたら、その打撃は計り知れないからです。
改めて世界を驚かせた悲劇的な公害の現実を知れば知るほど「企業と環境の共生は、世間知らずの頭でっかちの優等生が唱える机上の空論」と嘲笑されても不思議ではありません。
トランプ大統領はフェイクと嘲笑
2025年1月に復権した米国のトランプ大統領は、まさに大笑いしている1人です。CO2など温暖化ガスの影響で地球温暖化が進み、気候変動が発生していると唱える学説に対し、フェイクと主張し、無視する大統領です。しかも、持論に抗う企業には収益を削ぐ圧迫をかけ続け、翻意を強制します。取引先にまで太陽光など再生可能エネルギーの利用を強いるなど地球温暖化阻止に熱心だった米アップルは今、ティム・クックCEOがトランプ大統領が大好きな24金製の贈り物をわざわざ手渡しするほどすっかり軍門に下っています。
地球温暖化阻止に向けてこのまま進むのか、それともフェイクニュースとして葬られるのか。右往左往する振り子に惑わされているのが電気自動車(EV)です。政府や企業から地球温暖化阻止の切り札と持ち上げられたと思ったら、エンジン車からEVへの移行はインフラが追いつかず時期尚早であり、国の基幹産業である自動車メーカーを崩壊させるだけとの批判が沸き起こり、EV普及は足踏み状態です。
過去5年間を振り返ってください。気候変動に神経を尖らせる欧州連合(EC)は2035年までエンジンを搭載する新車販売を全面禁止することを決めました。欧州委員会が2021年に提案、EU加盟国と欧州議会が2022年10月に追認します。地球温暖化に伴う気候変動に対する回答として、CO2など温暖化ガスを大量に排出する自動車産業は、100年以上の歴史を持つエンジンから電動化への道を選択しました。
欧州は米国、日本に先駆けてEVの世界標準を狙う
欧州が米国や日本に先駆けてEVへ突っ走るのは予想できました。自動車発祥の地、ドイツはじめ欧州各国は日本同様、国の経済の基幹産業です。エンジン車から一気にEVへ全面転換するのは簡単なことではありませんが、自動車産業で日米に劣る欧州が選択する戦略は明白です。第二次大戦後、米国を追う形となった欧州は、巧みな外交力を駆使して経済のデファクトスタンダード、いわゆる世界標準の先導するのが欧州の存在感を示すことに注力してきました。
欧米、日本などがスタートラインに並んで最先端技術のEV開発に取り組めば、米国や日本に出遅れる可能性があります。経済規模で劣るとはいえ、世界の政治、経済の決定で常に重要な役割を自任し、決して手放さない欧州が生き残りの戦略です。EVに関する規制やインフラなどで世界標準を握れば、米国や日本が技術開発で上回っても、欧州主導でEVに関する規制や政策を左右することができます。
残念ながら、あまりにも早急でした。わずか10年間あまりでエンジン車を縮小してEVへ全面転換できるのか。だれもが疑問を抱き、欧州各国の基幹産業である自動車が壊滅してしまう危惧を抱きます。しかし、その危うい経営環境をわずか隙間を突き抜けるEVメーカーが登場します。イーロン・マスクが率いるテスラでした。=次に続く
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