Eco*nomy

ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

   「日本の社会はおじさん中心の社会だった。昭和の名残りある。これを大きく変えなければいけない」。西村経済産業相がスイス・ダボスでにこやかに語っている姿は、かつて取材した倒産寸前の企業経営者とダブって見えました。明日の運転資金もないのに「これから経営改革を進めなくちゃね。このままでは生き抜けない」と自信たっぷりに話していました。

西村経産相「日本の社会は、おじさん中心、昭和の名残り」

 日本は本気で変わろうとしているのでしょうか。

 2023年1月18日、日本政府は世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」で「日本経済再生の道」というセッションを開催しました。冒頭の発言は登壇した西村経産相が変革の決意をダボス会議に参加する世界の有力企業経営者、有識者に表明したものです。発言の趣旨は極めて的を射ています。

 日本の経済政策は今でも昭和の発想のまま。高度経済成長時代の成功体験を反芻しながら、バブル経済の崩壊後も日本の強さを信じています。1990年代初めまで世界でトップだった国際競争力がまだ十分に残っていると信じ、その残香に酔っています。「本気になれば、いつでもトップに返り咲きできる。世界は日本を尊敬し、羨ましく思っている」。そんな胸の内を見透かした一例が日本礼賛のテレビ番組。視聴していると、なんとなく日本の底力に安心するのがわかるはずです。

 しかし、見落とさないでください。西村経産相は「昭和」という言葉を使ったことを。昭和は日本の元号。「Showa」と発言しても、世界の人がいつの時代を指しているのかわかるでしょうか。昭和を引用したのは、世界から戦後の奇跡といわれた日本経済の象徴としての意味を持たせています。日本の政治家や経営者なら「昭和」を引用した意図は理解できますが、ダボス会議に参加した他国の人々に通用するジョークじゃありません。

日本を含めパフォーマンスだけの場に

 一言一句でとやかく言うのは好きではありませんが、日本人にしか通用しない内向きの言葉を選ぶ大臣、その振り付けをする経産省の発想は、まだまだ昭和のまま。発言の趣旨は的を射ていますが、世界に日本の変革をアピールするためダボス会議で開催したセッションの狙いは見事に外しています。

 ダボス会議がパフォーマンスの舞台になっている一例です。会議の賞味期限切れを痛感します。世界経済フォーラムは1971年に経済学者のクラウス・シュワブさんが設立し、世界から要人らが集まる年次総会は開催地のスイス・ダボスの名称からダボス会議と呼ばれています。2023年で53回を数えます。

 ダボス会議に参加することは、優秀な経済学者、企業経営者、政治家として選ばれた”名誉”と見られる傾向が年々強まっています。「ダボスに行ってきたんだ」と自慢げに話す企業経営者を何度も見かけました。2023年1月のテーマは「分断された世界における協力」で、52人の国家元首・政府代表を含む130カ国から2700人が参加したそうです。

世界の頭脳と政治力が集まる場は素晴らしい・・

 世界の頭脳と政治力が集まり、彼らの議論を通じて世界が取り組むべき方向性を見定める。素晴らしいことです。ただ、2023年は過去に何度も出席して中国の存在感の大きさをアピールしてきた習近平主席が参加を見送っています。

 世界はロシアのウクライナ侵攻という悲劇を目の当たりにしています。中国は世界の政治情勢を変えることができる主役です。しかし、ダボスを訪れない。ダボス会議をどう利用しているかがよくわかります。

 ダボス会議は、エネルギーと食料の危機、経済・社会の新しいシステム、労働環境の改善、世界のリスクなど幅広く議論をします。さまざまな考えを持ち、利害が反する人が集まり、議論するわけですから「世界が取り組むべきわかりやすい解答」を結論として求めることは無理。承知です。

悲喜劇として眺める余裕はない

 主催者が十分にわかっています。結局は参加者が世界の舞台のうえに立ち、派手なパフォーマンスを演じるだけ・これで終わるなら、開催趣旨から大きく外れています。日本の歌手や俳優がカーネギーホールやブロードウエイで演じたと胸を張るのと同じ風景です。

 ダボス会議の無力さを嘆く気持ちはありませんが、その形骸化は残念。賞味期限が切れかかっています。空疎な議論に終始する会議を喜劇と呼ぶのは簡単ですが、ウクライナ侵攻、人権問題、さらなる有事の可能性などを考えれば、悲喜劇を観客席から眺める余裕はありません。

日本の変革がアニマルスピリッツだけじゃ寂しい

 日本のセッションではサントリーホールディングスの新浪剛史社長も参加し、「日本は30年間にわたって企業中心にアニマルスピリッツ、なにか新しいものを取り入れて変えていくんだという力がなくなった。活力がなくなってしまった」と指摘しました。日本の企業経営者に対し知力や経験ではなくアニマルスピリッツという本能に訴えたことに違和感が残りますが、変革に挑む姿勢は大歓迎します。新浪社長は近く経済同友会の代表幹事に就任します。その辣腕を経済界の改革に期待しています。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 「COP30は賞味期限切れ、パリ協定は消費期限切れ」で良いのか

  2. トヨタ、三菱ふそう、公取委の警鐘が聞こえない 下請法いじめ解消の鈍感さに呆れる  

  3. 環境経営の虚と実② EV支援策が消えた米国 蛇行するテスラはそれでも飛翔する

  4. 環境経営の嘘と実 ① 政府と企業の狭間を奔走するEV

  5. 損保ジャパン、個人情報の漏洩が止まらない 地に落ちた信用をどう回復するのか

  6. 日本生命 銀行情報を無断持ち出し 信用という保険を自ら貶め、捨てる

  7. 伊藤忠が女性活躍推進のオレンジボンド 三菱、三井と並ぶ年収引き上げなど、岡藤会長の人心掌握術に敬服

  8. 下請けいじめが大幅改善 中小企業庁、公取委の二人三脚が大成功!

  9. 国際司法裁判所 気候変動対策の義務を勧告 後退りする世界へ警告

  10. HSBC 脱炭素の国際枠組みから脱退 金融の真骨頂が付和雷同、右往左往とは情けない

  1. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  2. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  3. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  4. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  5. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  6. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  7. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  8. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  9. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  10. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP