ESG・SDGsと企業経営

公取委 ロピアに立入検査 商習慣と「下請けいじめ」を勘違いする流通業

 「他のスーパーでも経験している」「昔のデパートでは当たり前」。意外にも、違法行為なのかと驚く声を聞きます。

「当たり前」の声も

 公正取引委員会が食品スーパーのロピア(川崎市)を独占禁止法の疑いがあるとして立ち入り検査したニュースです。ロピアは新規開店や店舗改装の際、納入業者から従業員を無償で派遣してもらい、商品の陳列などを手伝わせていたそうです。派遣してもらった従業員には納入する自社の商品だけでなく、他社の商品も陳列してもらったというのですから、ロピアの社員と同じ感覚で働いてもらったのでしょうか。
 独禁法が示す不公正な取引行為に相当します。ロピアの場合でいえば、商品を購入する優越的な立場を利用して、納入業者が断ることができないことを承知して従業員の派遣を求めたことです。

 商品を納入する取引先からみれば、とても断れないでしょう。ロピアは中堅スーパーながら、急速に全国展開しています。関東圏が中心でしたが、北海道などにも広がっており、現在は19都道府県に118店舗を運営しています。22年9月以降は50店舗ほどを新規出店しているそうですから、かなりのスピードです。

快進撃ロピアを支えるのはスーパーの世代交代

 ロピアの快進撃を支えているのはスーパー業界の世代交代、あるいは新陳代謝が進んでいるからです。西友やイトーヨーカ堂など総合スーパーは主力の食品部門をヤオコーやサミットなどに客を奪われ、食品以外はドン・キホーテなどのディスカウンターに太刀打ちできず、相次いで閉店しています。西友は九州のディスカウンターに買収されたましたが、ヨーカ堂が閉店した店舗にロピアが居抜きで新規出店する例も目立っています。

 新規出店の勢いが凄まじいだけに、取引量が多い納入業者は、ロピアから従業員派遣を求められたら、断ることができないでしょう。

 もっとも、ロピアにも求めざるを得ない事情があったかもしれません。これだけのスピードで出店していたら、店舗を運営する従業員が不足します。独禁法が禁止している不正な取引行為に相当することを知らず、流通業界の常識のように多用された「応援」をお願いしたのかもしれません。まあ、知らなかったで済むなら、警察は要らない(今回は公取委は要らない)という話ですが・・・。

 ロピアは2025年6月 16日付けで親会社のOICグループと連名でコメントを発表しています。

弊社は本件を厳粛に受け止め、調査に全面的に協力するとともに、社内のコンプライアンス体制の見直しに着手しております。

このたびは、お取引先様との公正な取引関係に反する行為により、多大なるご迷惑とご負担をおかけしたこと、そしてお客様をはじめ関係者の皆様にご心配をおかけしたことに対し、深くお詫び申し上げます。

今回の事態は、弊社の認識の甘さに起因するものであり、深く反省しております。今後は、公正取引委員会のご指導を仰ぎつつ、再発防止に向けた実効性ある是正措置の策定と実行に全力で取り組んでまいります。この度は誠に申し訳ございませんでした。

「認識の甘さ」はもう許されない

「認識の甘さ」の一言にすべてを語っています。昭和の頃から商習慣として「販売応援」と呼ぶ形式で小売り店舗に納入業者の従業員が出入りして商品を陳列、販売してきました。毎日、顔を合わす他社の人間がいつまにか自社の人間と勘違いしてしまい、なんでも手伝ってもらう。「こっちは大量に商品を仕入れているのだから、少しぐらいは良いだろう」という馴れ合いが流通業界に染み付いているのです。

 公取委がロピアに下した鉄槌は、流通業界全体に対する警鐘なのです。「そろそろ馴れ合いを排して、法律を認識してビジネスをしましょう」と耳元でやさしく語りかけているつもりです。

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