ESG・SDGsと企業経営

日本でも内部告発で企業、組織が変革する動きは加速するか 消費者庁が刑事罰を検討

 日本の内部通報者への保護策がようやく前進します。消費庁は企業や役所などで不正を内部告発した人物に対し解雇や懲戒などで処分した場合、刑事罰を課す方針を固めました。欧米では経営者や企業など組織的な不正を内部告発する動きが広がっており、最近では2021年には代表的なソーシャルメディアのフェイスブックの内幕を暴いたフランシス・ホーゲンさんが有名です。この告発により世論形成などで大きな影響力を持つSNSのあり方や経営について大きな議論が起こりました。日本でも内部告発が大きな声として定着する時代を迎えるのでしょうか。

内部告発者が不利益を被ることも

 内部告発はとても勇気が必要な行動です。目の前で不正が行われ、そのまま見逃せば健康や生命、あるいは社会の理解に大きな損失を及ぼすと分かっていても、内部告発により自分自身の社会的な地位、報酬を失うことを恐れ、ためらう場合が多いの事実です。消費庁は有識者会議などを経て議論を重ね、法制化を検討するそうです。内部告発者が報復人事を恐れずに通報できるように守る方策を具体化し、政府が進めている公益通報制度の実効性を高める狙いです。

 フランシス・ホーゲンさんは2021年、数万ページに及ぶフェイスブックの内部文書を公開しました。内部文書には、フェイスブックが10代の若者のメンタルヘルスにどう被害を与えているか、あるいは誤った情報がどうのように拡散しているかなど広範な問題が記録されていました。フェイスブックがSNSの重要なインフラでありながら、会社として本来なら解決しなければいけない問題を放置していることを明らかにしました。

フェイスブック告発はSNSの経営も問う

 この内部告発に対しフェイスブックは当初、意味不明な内部告発と否定していましたが、ホーゲンさんは米議会の公聴会などでフェイスブックが内部に抱える問題点を暴き続け、フェイスブックは創業以来の最大の危機に追い込まれました。創業者のマーク・ザッカーバーグは窮地に立たされ、SNSに関与する企業経営の実態を問う動きが広がりました。若者に対する影響力が大きいだけに、正確な情報をどう伝えるか、さらにフェイクニュースはじめ情報の品質をどう維持管理するかなど現在でも論議が続くテーマです。

 フランシス・ホーゲンさんは2021年末に米タイム誌の表紙を飾っています。その3週間後には2021年の「Person of the Year」に選ばれたイーロン・マスクさんが掲載されていますから、事実上、イーロン・マスクさんと並ぶ「2021年を象徴する人」として評価しています。

ダイハツ、兵庫県知事も内部告発から

 日本でも内部告発は着実に広がっています。ダイハツ工業などトヨタ自動車グループで多発した不正認証事件は、内部告発がきっかけです。これまで内部告発そのものが会社や組織に反する否定的な動きと見られていましたが、ようやく風向きが変わって企業など組織に縛られずに倫理的に正しい行為を実践することが評価されてきました。

 しかし、兵庫県知事によるハラスメント行為などが内部告発した県職員が自殺に追い込まれたのも事実です。不正と信じて告発した人間が不利益を被り、名誉と命を失うことはあってはならないことです

 すでに内部告発者を保護する法律は制定されています。米国が1989年、英国で1998年、日本は2004年です。つい最近の出来事です。社会的な認識、法的な保護にまだ多くの課題があります。内部告発者を守る制度が刑事罰も含めてより強固になれば、日本の風土を変える力になります。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


最近の記事
Eco*Ten
  1. 「COP30は賞味期限切れ、パリ協定は消費期限切れ」で良いのか

  2. トヨタ、三菱ふそう、公取委の警鐘が聞こえない 下請法いじめ解消の鈍感さに呆れる  

  3. 環境経営の虚と実② EV支援策が消えた米国 蛇行するテスラはそれでも飛翔する

  4. 環境経営の嘘と実 ① 政府と企業の狭間を奔走するEV

  5. 損保ジャパン、個人情報の漏洩が止まらない 地に落ちた信用をどう回復するのか

  6. 日本生命 銀行情報を無断持ち出し 信用という保険を自ら貶め、捨てる

  7. 伊藤忠が女性活躍推進のオレンジボンド 三菱、三井と並ぶ年収引き上げなど、岡藤会長の人心掌握術に敬服

  8. 下請けいじめが大幅改善 中小企業庁、公取委の二人三脚が大成功!

  9. 国際司法裁判所 気候変動対策の義務を勧告 後退りする世界へ警告

  10. HSBC 脱炭素の国際枠組みから脱退 金融の真骨頂が付和雷同、右往左往とは情けない

  1. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  2. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  3. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  4. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  5. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  6. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  7. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

  8. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  9. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  10. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

カテゴリー

明治神宮外苑から信濃町へ

TOP