ESG・SDGsと企業経営

トヨタ、三菱ふそう、公取委の警鐘が聞こえない 下請法いじめ解消の鈍感さに呆れる

 正直、自動車メーカーの鈍感さに呆れます。独占禁止法の番人と呼ばれる公正取引委員会はここ数年、大企業による中小企業に対する下請法違反に数多くの警鐘を鳴らしており、自動車産業に対しても大手部品メーカーの「下請けいじめ」を繰り返し摘発しています。しかも、契約時の取引価格を支払わない不正請求だけでなく、金額で明記しにくい金型など部品の無償保管は下請法違反であることを多くの摘発事例で公表しています。

自動車部品で摘発相次ぐ

 にもかかわらず、10月末にトヨタ自動、三菱ふそうトラック・バス(川崎市)の2社に対し取引企業に金型の無償保管を強いたとして下請法違反を認定、勧告しました。

 トヨタ自動車の場合は、子会社のトヨタ自動車東日本(宮城県大衡村)が下請け企業に金型を無償保管させたことを下請法違反と認定し、再発防止を勧告しました。ただ、トヨタ自動車東日本はトヨタグループが作成した取引マニュアルを参考に不正行為を犯したため、公取委はマニュアルを作成した親会社のトヨタに対しても改善措置を求めました。

 実は2024年にも別のトヨタ子会社が摘発されています。公取委は事実上、トヨタがグループぐるみで下請法違反を行なっていたと認定し、勧告したわけです。

 三菱ふそうは2024年以降、新たな発注予定が無いにもかかわらず、5000個超える金型を下請け業者50社以上に無償で保管させていたそうです。中小企業庁などの調査で判明し、公取委に勧告を求める「措置請求」が伝えられていました。

長年の商習慣にあぐらをかく

 トヨタ、三菱ふそうの下請法違反から浮かび上がるのは、完成車メーカーを支える広範な下請け企業群で長年、不正行為が当たり前のように継続してきたことです。

 背景には日本経済を支えてきた中小企業と大手企業が継承してきた商習慣の歴史があります。現在では下請法違反と認定される支払い金額の低減、期間の延期などは、昭和のころは取引の力関係でコロコロ変わるのが常識。結局、大企業が発注する優位的な立場を利用して契約した取引価格を下回る金額を支払う事例が絶えないうえ、本来なら費用を支払うべき金型や部品の保管を無償で求める商習慣が定着していまいました。

 今回、トヨタや三菱ふそうが摘発された金型の無償保管も本来なら保管費用を払わなければいけませんが、今後の発注などを期待して下請け企業が喜んで無償保管する事例が多くありました。言い換えれば、長年の取引関係を象徴する信頼と勘違いしていたわけです。

 それにしても、下請法違反に対する意識の鈍感さに呆れます。この3年間をみても、公取委と中小企業庁が下請け企業に対する不正取引を盛んに摘発しており、トヨタに限らず自動車各社の購買担当は現在の取引形態が下請法違反に触れるかどうかをチェックしているはず。それでもトヨタや三菱ふそうは是正しなかったのですから、不正行為という認識がなかったのでしょう。

狙いは日本経済の浮揚力を取り戻す

 公取委や中小企業庁が盛んに「下請けいじめ」を摘発するのは、中小企業の収益力を強化して日本経済の浮揚力を取り戻すのが狙いです。大手企業と中小企業の収益力格差は、従業員に支払う給与格差に直結するため、日本経済の根幹である中小企業の成長力や人材力を弱体化させてしまいます。

 30年間、日本経済が実質成長率がゼロを続け、年収も横ばいとなっている主因といわれています。大企業が中小企業から収益を奪う悪弊は消えないでしょうが、結局は大企業に負のツケが回ってくるのです。下請法違反の撲滅は日本経済にとって大きな利益をもたらすことを忘れないでもらいたいです。

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