ESG・SDGsと企業経営

缶チューハイが企業の倫理観を試す 利益に酔えない商品開発、マーケティング

 缶チューハイが企業の倫理観を問うリトマス試験紙になるとは思いませんでした。リトマス試験紙って何?と戸惑う人もいるでしょう。本来はアルカリ、酸性の度数を明らかにする試験紙ですが、今回は収益と企業倫理を天秤にかける試験紙です。ビールなどアルコール飲料を生産するメーカーが購入するお客さんの健康を考え、扱う製品を選別する。ひとつ間違えば、信頼を失い、企業の浮沈を左右する。ビールメーカーは、タバコを扱う会社と同じ道を歩み始めています。

倫理と利益を天秤にかけると

 リトマス試験紙の役を負うのは、アルコール度数8%の缶チューハイ。「ストロング系」とも呼ばれ、価格も安く手軽に酔えるため、販売は好調に伸びており、スーパーの飲料売り場でも目立つ存在となっています。アルコール度数が高く、価格も安いこともあって、酔った勢いで飲み続けると自分自身の適量を超えるアルコール摂取になってしまい、予想以上に酩酊してしまう恐れがあります。

 ビールなどの飲料メーカーはこぞって販売を拡大していましたが、すでにアサヒビールやサッポロビールは8%以上の缶チューハイの新商品を発売しない方針を決めています。キリンビールも販売を継続するかどうか見直しを始めています。

厚労省のガイドラインが背中を押す

 背中を押しているのは、厚生労働省が公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」。生活習慣病リスクを高める純アルコール量の1日あたりの参考値として、男性は40グラム以上、女性は20グラム以上を示しました。20グラムは、ビールのロング缶1本(500ミリリットル)、日本酒だと1合(180ミリリットル)。ビールのアルコール度数は平均5%ですから、8%のストロング系を1本飲んだからもうオーバーです。

 缶チューハイは2010年代から広がり、若者や女性を中心に需要が伸びています。とりわけストロング系は、ウォッカなどをベースにレモンやぶどうなどフルーツの風味を加え、飲みやすく、しかもすぐ酔えるため、「割安なアルコール」として人気が高まっています。コロナ禍で居酒屋に行かず自宅で飲む習慣が広がったことも需要を押し上げました。ただ、通常の缶チューハイのつもりで本数を重ねると、予想以上に酔い、注意を呼びかける声も増えています。

ビール各社は戦略商品と注力したが・・・

 ビール各社にとって缶チューハイは戦略商品です。ビール離れが進んでおり、居酒屋で「とらあえずビールを」という注文は過去の遺物になってしまっています。ビールを飲まない若者は、缶チューハイなどジュース感覚でアルコールを楽しむようになっています。飲料業界では「RTD」(Ready To Drink)と呼び、サントリーがオーストラリアで本格的に販売を始めるなど海外展開も含めて戦略商品として注力する動きが広がっていました。

「百薬の長」とはいえ、先行きは厳しいかも

 しかし、健康を害する恐れを指摘される「ストロング系」で利益を上げても、食品メーカーとしての信頼を失う可能性も出てきました。「百薬の長」とも呼ばれるアルコールですが、行き過ぎは健康を害するのことになります。「百害あって一利なし」と医者から断言されるタバコに比べれば、まだ救いがありそうですが、「ストロング系」の将来はタバコが歩んだ道をなぞることになりそうです。

最近の記事
Eco*Ten
  1. ニュージーランドが牛のゲップに税金、隣国オーストラリアは困惑気味

  2. ESG・SDGsの経営 金融サービスと製造業を並べて評価するのは公平か

  3. 東京都 新築戸建てに太陽光を義務化 「電力は地方頼み」を解消するのも脱炭素社会の一歩に

  4. 明治神宮外苑から信濃町まで歩く この風景と歴史を壊す理由が見当たらない

  5. ESG投資は「ファクトフルネス」に耐えられるのか アルケゴスの幻影がちらつく

  6. オープンハウス ESG・SDGsで資金調達、「環境」でニッチ戦略の道をどう開くか

  7. 三井不動産「街と人の外苑」よりも「明治神宮の内苑」を最優先

  8. ESG・SDGsとマネー③ ESGの冠を取り下げようの声も 投資の透明性に不満

  9. ホンダとGE がバイオ燃料SAF100%でジェットエンジンをフル稼働

  10. ヘラルボニーと味の素AGF 知的障がい者のアートをドリンクディスペンサーに

  1. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  2. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  3. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  4. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  5. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  6. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  7. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  8. ダボス会議 悲喜劇の舞台に形骸化、そろそろ賞味期限切れが迫っている

  9. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  10. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

TOP