ESG・SDGsと企業経営

企業のサステナ情報開示の義務化を徹底して、足踏みする欧米に追いつき、追い越すチャンスに

 金融庁が進めている上場企業のサステナビリティ情報開示が足踏みするかもしれません。日本経済新聞が「一部プライム企業に対し、サステナビリティ情報開示の義務化を見送る」と報道しました。これに対し環境やSDGs・ESGに関するビジネス情報誌「オルタナ」は金融庁の担当者のコメントとして「義務化の開始時期を検討するだけで、現時点で(全プライム企業への)義務付けを撤回した事実はない」と伝え、情報開示を巡る「情報」が錯綜し始めています。

 ここ10年間、サスティナビリティに関する情報開示は大企業にとって世界の金融の潮流と思われていましたが、投資家の関心が薄れ、ニーズや重要性も大きく変わってきました。金融庁の方針をめぐる錯綜したニュースは、環境やSDGs・ESGに関する企業の取り組みが壁にぶち打ちあっている現状をよく表しています。

金融庁の方針に揺れ?

 そもそもサステナビリティ情報の開示義務化とはなにか。企業が環境や社会、ESG に関する情報を有価証券報告書などで開示することを義務付ける制度です。2023年1月に「企業内容等の開示に関する内閣府令」が改正されて、2023年3月期決算から有価証券報告書に環境やESGなどへの取り組みを記載するよう求められました。

 3年ほど前までは、余韻が残っていました。企業が地球環境保護にどう対峙しているのか、その具体策としてSDGs、ESGを実践しているのか。地球温暖化が現実に感じられるようになった2000年代に入って、投資家や消費者が企業を選別する流れが広がり、サスティナビリティに関連した情報ニーズの需要は増えていました。欧州を中心にESGの名前を冠した投資案件が急増し、これに伴い投資総額も拡大。米国でも世界最大の投資会社ブラックロックなどが追随する形で取り扱いを優先。日本もその余波が押し寄せ、サイステナビリティ情報を開示する機運が一気に高ったのです。

米国で潮目が変わる

 ところが、潮目はがらりと変わります。その象徴はトランプ大統領の誕生です。大排気量のエンジンでガソリンをがぶ飲みしていた米国製自動車を見捨てて、電気自動車(EV)に切り替える動きが定着したかに見えましたが、EVは高価格でバッテリー充電などの問題で使い勝手が悪い。

 米国の産業、日常生活は元々、エネルギーを過剰に消費するスタイルですから、我慢にも限度があったのでしょう。地球環境保護に対する政策は意味がないとの世論が高まり、共和党など保守層を中心にESG投資への批判が強まり、排除の動きすら出ています。

 しかも、ESGの視点を取り込んだ投資は収益重視の金融商品に比べれば見劣りしましう。低いパフォーマンスを強いられる機関投資家から批判の声が高まります。ESGを投資選別の基準として採用していたブラックロックには非難する声が多く寄せられていました。

 日本の金融庁は、サスティナビリティ情報の開示義務を時価総額3兆円以上の企業は2027年3月期から、1兆〜3兆円の企業は2028年3月期からそれぞれ適用する方針を決定しています。6月27日に開催した第8回金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」では、東証プライム市場に上場する企業を対象に有価証券報告書上にSSBJ基準に基づいたサステナビリティ情報の開示を求めました。

 情報開示が具体的に進んでいる中、日本経済新聞は2025年7月7日、「金融庁はプライム市場に上場する企業の約8割に当たる時価総額5000億円未満の企業について、サステナビリティ情報開示の義務化を見送る」と報じました。一律開示と比較したら、後退です。金融庁の一部には米国の空気を反映して投資家の関心が低下し、時価総額で義務化の実施スケジュールを細分化しようと考える勢力もあるのでしょう。

日本の経営革新のきっかけに

 日本の金融政策は欧米の後追いと割り切ってしまえば、違和感は生まれません。しかし、資源小国として省エネなど世界トップクラスの環境技術を持ちながらも、コーポレートガバナンスなどESGへの取り組みが遅れ、それが日本企業の経営が地球環境保護の観点で世界から立ち遅れていると批判を浴びてきました。

 今こそ劣勢を挽回すると共に、欧米に追いつき、追い越すチャンスです。日本経済新聞が報道しているニュースが正しいかどうかよりも、金融庁はじめ日本政府は産業、企業の革新をめざしてサスティナビリティ情報の開示をどんどん進めてほしいです。多少の不満は飲み込んでしまいましょう。日本企業の経営全般を変え、日本経済の成長力を高めるなら十分にESG投資の帳尻は合います。開示義務化の区切りは5000億円未満などケチなことは言わないでほしいです。

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