ESG・SDGsと企業経営

フジテレビ、ファンド提案を足して2で割る企業倫理では救われない

 フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスと米投資ファンドのダルトン・インベントメンツが取締役人事を巡って鞘当てしています。フジ・メディアは3月、経営を再建するため、6月の定時株主総会に向けて新たな取締役候補を提案しましたが、ダルトンは中居正広「性加害」で明らかになった企業経営の不備が是正されていないと考え、取締役陣を事実上総取っ替えする案を提示しています。水面下で交渉したのでしょうか。ここにきてフジ・メディアからファンド提案を含めて選任する意見が出てきました。

ダルトン案を飲む?

 フジ側もダルトンの提案を突き返すだけの余裕がありません。性加害を非難する声の高まりで広告収入が激減しているうえ、ダルトン側がすでに大株主となっている旧・村上ファンドの村上世彰氏の長女と連携する考えを示しています。「腐っても鯛」のことわざではないですが、公共の電波を使用するテレビ局が投資ファンドの言いなりになってしまっては、総務省から放送法・電波法の観点から異論を提示される可能性があります。

  フジ側は5月中に、取締役の差し替え案を固める方向です。NHKによると、社外取締役の齋藤清人・文化放送社長がファンド側の提案を含めて丁寧に選ぶべきだという考えを示していると伝えています。

 足して2で割る妥協案。相対する意見の衝突を防ぐため、双方の意見をすり合わせて互いに納得する方向にまとめ上げる。交渉ごとではよくあることです。しかし、事は有名タレントの性加害をきっかけにテレビ局の性加害・被害に対する姿勢を問う企業倫理に関わっています。足して2で割って編み出した企業倫理が果たして倫理と呼ぶにふさわしいものなのか。甚だ疑問です。

北尾氏は乗っ取りが目的?

 懸念材料はあります。まずダルトンがどこまでフジテレビの経営内容を理解しているのか。会社提案の対抗案として12人の取締役候補を提示しましたが、直後に取締役候補の1人を差し替えました。ダルトン共同創業者のジェームズ・ローゼンワルド氏です。放送法・電波法では外国籍の取締役が選任された場合、フジテレビの放送免許は取り消されることがわかったからです。再建に向けて経営改革を求めていたダルトンですが、フジテレビの経営の「イロハ」を理解していなかったのです。

 取締役候補案にSBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長が選ばれているのも違和感があります。かつてライブドアの堀江貴文社長によるフジテレビ支配に対抗するホワイトナイトとしてフジ側に立った経験もあるせいか、北尾氏はフジ・メディア取締役会長に就任する意欲を示しています。

 北尾氏はSBIの決算発表でフジの取締役就任が実現しない場合、親会社の株式を取得する考えを示し、メディアと金融を融合するというSBIの構想に従い「グループに取り込むかどうかを検討する」と話し、その際は旧村上ファンドを率いる村上氏の長女らと連携する可能性を示しました。フジテレビの経営改革よりも乗っ取りを目指している発言としか思えません。

性加害問題は何も解決せず

 本来、最も重視すべきフジテレビの企業倫理の修復はどこに吹き飛んでしまったのでしょうか。フジ側とダルトンの妥協案がどんな内容になるのかわかりませんが、企業倫理よりもビジネスが最優先されるようでは中居正広「性加害」問題は何も解決しません。

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