ESG・SDGsと企業経営

再開発は誰が決める 渋谷・六本木をコピペした明治神宮外苑は都民の財産か イコモスが見直しを

 再開発は誰が決めるのだろう?。自宅に近い最寄り駅前の再開発計画が浮上しているのを機会に素朴な疑問が浮かびました。東京都下の街ですから、過疎化が進んでいるわけではありませんが、対象地域は人通りも多くなく新たな需要が創出されるとは思えません。駅をいくつか乗り継げば日本有数の商業地域がにあります。買い物には困りません。でも、自治体や市議の皆さんは地元活性化のためには再開発が必要と言い始めています。昭和の頃と同じです。再開発は「再開発」のために始まるのです。

「再開発」のための再開発

 新聞記者時代、地方の主要都市の再開発をいくつも取材しましたが、地権者のみならず多くの住民が参加して具体化に取り組むのが通例です。何十年もかかる例もありました。かつて美濃部亮吉東京都知事が「一人の反対があれば橋を架けない」という橋の哲学を披露し、物議を醸しましたが、全員賛成とまで言わないまでも多くの関係者が納得するよう努力はすべきでしょう。

 ところが、東京の明治神宮外苑の再開発を見ていると、とても議論が出尽くしているとは思えません。主力地権者である明治神宮、伊藤忠商事、三井不動産などが合意しているから着工しているわけですが、明治神宮外苑は中小都市と違って都民のみならず首都圏、国内外の観光客などが訪れます。明治神宮外苑の歴史を見ても、寄付などをもとに整備が始まり、日本で初めての風致地区に選ばれた地域です。控えめに見ても、ほとんど公共財です。地権者がOKを出したから、東京都などが着工に問題ないと判断する代物ではありません。

渋谷などをコピペする必要はない

 訪れればすぐにわかります。素晴らしい銀杏並木を主役に開放感あふれる空間が広がり、都内でも貴重な自然を維持しています。手入れを長年重ね、多くの人に愛された空間を一度、壊したら元に戻りません。再開発後は高層ビルが立ち並び、東京都内ならどこにでもある風景に変貌します。貴重な風景を捨て去り、すぐそばの渋谷や六本木、麻布と同じ風景をコピー&ペーストするのです。商業施設は都内なら、売るほどあります。必要な人は渋谷や六本木を訪れば済むことです。

 幅広分野から多くの異論が示されているにもかかわらず、東京都の小池百合子知事は「手続きは適切に進めている」と繰り返すだけ。地権者の代表である三井不動産も住民に対する説明会を開催し、ていねいに地元説明している姿勢を貫きます。

 再開発中止を求める警告を出したユネスコの諮問機関のイコモスの国内委員会は、要請していた回答が期限までになかったとして都などに対し改めて回答を求めました。ユネスコの諮問機関のイコモスは9月、「世界の公園の歴史においても例のない文化的資産」だとして再開発の中止を求めて「ヘリテージ・アラート」と呼ばれる警告文を都や事業者などに送っています。

JR東日本はアラートに対応

イコモス側がアラートを出しても、法的な拘束力はありません。ただ、かなり異例の出来事です。以前、JR東日本が高輪ゲートウェイ駅周辺の再開発工事で見つかった「高輪築堤跡」を対象に、明治の文明開化を伝える遺構として残すようアラートを出したことがあります。JR東日本は専門家や東京都、地元の港区が参加する有識者会議を設け、一部を保存する方向で進めています。法的な拘束力がないとはいえ、JR東日本がアラートをもとに保存する方向へ修正したぐらいですから、そう無視して良いのものではないと思います。

伊藤忠商事の本社

せっかくの企業イメージに傷をつけるのは

 明治神宮外苑の再開発を強引とも思える姿勢で進める背景に何があるのかはわかりませんが、多くの抗議の声を背にどんどん進めることは東京都にも三井不動産など再開発主体の企業にもプラスになるとは思えません。幸いにも再開発がずれ込んでも、三井不動産も伊藤忠商事も経営危機に陥る会社ではなさそうです。両社とも積極的にテレビや新聞などで企業イメージを高める広告戦略を展開しています。多額のお金をかけて多くの人から好まれる企業イメージをせっかく築き上げたのに、傷がついたらもったいない。

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