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世界の投融資、地球環境を忘れ、ESGを捨てて得た利益は誰が手にするのか

 地球環境の温暖化防止やESGの普及を目的とした環境関連の投融資が縮小しています。世界で立ち上がった環境関連の投融資は2024年で4700億ドル、日本円で70兆円程度。ピーク時の2021年に比べ3割近くも減っています。

環境投融資は3割近く減

 ここ数年、米国でESGに反発するトランプ大統領や共和党の政治動向を先取りする形で抑制する流れが生まれており、環境やESGの名前を冠する動きが減っています。2000年代、環境、ESG、そしてグリーンと名付ければ、次代を先取る金融商品と賞賛されていたのが嘘のようです。

 わかりやすい例は世界最大の投資会社ブラックロックです。投資先を選択する基準として最重視しましたが、投資利回りや企業経営の実情にそぐわないとの意見に襲われました。そもそも倫理・社会の発想を持ち込んだのが問題とする声もあります。投資家はすでに地球環境や社会の安定性を重視しており、いまさら特筆する視点ではない。経済活動に社会倫理的な発想を持ち込めば投資や企業経営に支障をきたす。こんな視点です。屁理屈ですね。

 金融業界に限る話ではありませんが、トレンドに飛びついて新商品を設計しても飽きられたら忽然と姿を消しています。次代を本気で考えているかどうか。底の浅さを痛感してしまい、残念です。

 投融資は当然、資本主義の原理原則に従って決定されるものです。その時の金利や物価などに左右されるので、単純に政治動向を理由に語るべきではありません。ただ、地球温暖化は私たちの生活を守るためにも対処しなければいけない課題です。この2、3年を振り返るだけでも実感できます。これまでに経験のない降雨量や熱暑などが発生し、農作物の収穫、魚や動物の生態に大きな影響を与えています。台風、サイクロンの規模も拡大し、甚大な被害を引き起こしています。

 1980年代までは地球温暖化の現象を疑問視する意見もありました。むしろ、地球は氷河期を迎えると唱える説をよく聞きました。2007年にIPCC(気候変動における政府間パネル)がノーベル平和賞を受賞した時でさえ、データに関して疑義を唱える意見もありました。地球の鼓動は、もっと長い波動で変化しており、地球温暖化は一時的なのだというのです。

 しかし、私たちが日々、体感する気候変動はもう否定しようがありません。18世紀後半、石炭など化石燃料をエネルギー源とした産業革命が始まって以来、地球温暖化を招くCO2の排出が増え続けています。地球温暖化を阻止するため、1997年の京都議定書や2015年のパリ協定が国連を介して国際的な枠組みとして共有されています。

 経済活動は変わらざるを得ないのです。金融機関が提供するマネーは、人間に例えれば健康を支える血流です。そのマネーをいかに企業が健康を維持して元気で活動できるのか。投融資はその役割を担っているのです。

金融庁は持続可能な社会実現を

 日本政府は環境投融資をどう考えているのか。金融庁のHPを覗いてみました。

「貸し手のメリット」を次のように説明しています。

1ESG金融の一つとしての融資
グリーンローンは、借り手のデフォルト等がない限り安定的なキャッシュフローを得つつ、グリーンプロジェクトへ積極的に資金を供給し、それを支援していることをアピールすることができ、それを通じて社会的な支持の獲得につながります。
2融資を通じた投資利益と環境面等からのメリットの両立
グリーンローンとして融資を行うことで、融資による利益を得ながら、資金供給を通じ「環境・社会面からのメリット」に掲げるメリットの実現を支援し、持続可能な社会の実現に貢献できます。
3グリーンプロジェクトへの融資
再生可能エネルギー事業や省エネルギー事業等のグリーンプロジェクトには、大きな投資需要があると考えられる。このような事業に関連するグリーンローンを提供することにより、このような事業に直接関連した融資を行うことができます。
4借り手との深い対話を通じたサステナビリティの向上
グリーンローンの場合、借り手から開示される環境改善効果等に関する非財務情報を分析・評価し、環境改善効果の持続性等に関する対話を実施することが可能となります。このような取組は借り手のサステナビリティの向上、ひいては企業価値の維持・向上をもたらす可能性があります。

 難しい言葉が並びますが、金融機関にとってメリットがあると説いています。キーワードは持続性、サステナビリティです。経済活動が短期的な利益を求めるのではなく、中長期的な視点で決定することが投融資先の企業価値を高め、それが金融機関にもメリットをもたらすのです。

 世界の金融ビジネスは誰のために利益を稼ぎ出そうとしているのでしょうか。今、改めて考える時です。

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