ESG・SDGsと企業経営

サラリーマン金太郎が活躍するのか都立葛西臨海水族園 企業秘密は黒塗り、誰のための入札

 漫画「サラリーマン金太郎」の有名な場面を久しぶりに思い出させてくれました。総合建設会社、いわゆるゼネコンを舞台に本宮ひろ志さんが描く主役の矢島金太郎は、大活躍する場面、場面でゼネコンの裏事情を教えてくれます。最大手のゼネコン幹部が「本当のことだから、笑えないんだよ」と苦笑するほどかなり正確に描写しているそうです。

白紙入札の場面にゼネコンが苦笑

 最も印象的な場面は入札現場。ある市役所の入札で市役所担当者と癒着したゼネコンは応札金額を記入しない白紙を提出。市の担当者は入札結果を報告する時、そのゼネコンが提出した白紙を見ながら入札の最低価格を読み上げます。談合といった危ない橋を渡る必要もない。絶対に落札できる仕掛けです。白紙入札は極端な例とはいえ、工事計画が設計される段階から落札者をある程度想定しながら入札条件を決めていくのが裏舞台です。

 そんな金太郎の一場面を彷彿させたのが東京都立葛西臨海公園にある水族園の建て替え計画です。園内1万3000平方メートルの敷地に新施設を建設し、2028年3月に開園するそうです。民間資金などを活用するPFI方式が採用され、2組が入札。落札はNECキャピタルソリューションなどのグループ。落札金額は約431億円。計画の詳細を確認するため、入札時の提出書類を開示請求したところ、落札グループの入札案85ページのうち76ページがほぼ黒塗りだったそうです。東京新聞によると、東京都建設局は「提案に企業ノウハウが含まれ、公表すれば競争性に差し障る。公表の度合いは事業者の意向にも基づく」と説明したそうです。

情報開示の9割が黒塗り

 9割近い情報が黒塗り。ローリングストーンズのヒット曲じゃあるまいし。驚くしかありません。建て替え計画は税金が使われます。落札グループの企業秘密に関与することもあるでしょうから100歩譲ってすべてを開示してとまでは言いませんが、せめて6、7割の情報を知りたいというのが世間の常識でしょう。黒塗りの情報を知っているのは落札グループと東京都だけ。「サラリーマン金太郎」の場面なら、白紙入札が黒塗りに切り替わっただけ。「黒塗りを消した跡に浮かんだのは、何も書かれていない白紙だった」というオチになるのでしょうか。

1400本の樹々が伐採も

 葛西臨海水族園は1989年に完成し、老朽化が目立ったてきた2017年12月から建て替えが検討されてきました。落札したグループの計画によると、東京都は新水族園の建設エリアにある樹木のうち「約1400本」が伐採され、「移植を前提に設計を進めている」と説明しています。伐採した樹木1400本の跡地には太陽光パネルが敷き詰められるそうです。

 葛西臨海公園が開園したころ、江東区に住んでいましたから、よく遊びに行きました。東京湾周辺の動植物の保護・育成が狙いだったため、植栽された樹木や岸辺を大事に世話して自然保護の意識を徹底しようという意欲はわかるのですが、北海道や青森県で生まれ育っただけに、臨海公園周辺の自然は物足りなくて、いまさら遅いのでは思ったものです。しかし、10年もすぎると、樹々はたくましくなり、海岸線もなんか良い感じになります。「自然保護って、予想よりも早く効果が出るものだ」と痛感したものです。

都民は建て替えを白紙委任しているわけではない

 ところが、1989年の開園から34年もすぎた今、1000本以上の樹木の伐採計画が持ち上がります。「せっかく臨海公園、水族園の自然をここまで育てたのに、もったない」。田舎育ちの人間じゃなくても、同じ感想を持つのではないでしょうか。

 入札案件の内容を開示せず、予定通りの落札に成功し、建て替え計画が順調に進めば全て良し。役所とゼネコンの癒着を横に置いて、サラリーマン金太郎の活躍ぶりに喝采を叫ぶのはマンガの世界だけです。葛西臨海公園、水族園の本来の責務である自然保護は、これまで通り継承して欲しいです。役所は業者さんじゃなくて住民に目を向けるのが仕事です。住民は白紙委任しているわけではありません。

最近の記事
Eco*Ten
  1. 不二製油 違法な森林乱伐を監視、輸入原料のESGが企業の生命線に

  2. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  3. デンソーEco*Ten(上) 実力は最強クラスでもトヨタへの忖度か、最前列に登場せず、残念!

  4. カーボンゼロを目指すJERAの不思議 新エネの旗手なのか、化石燃料の隠れ蓑なのか

  5. 星野リゾートがグリーンファイナンス、環境関連の資金調達のチェック度は?

  6. G7環境相会議④福島第1原発の汚染処理は世界に理解されているのか

  7. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  8. 西武鉄道 再エネで全路線を運行 終着駅は地産地消型のエネライフでカーボンニュートラル

  9. G7環境相会議を考える③プラスチック汚染 出遅れの日本、リサイクルなど仕切り直しへ

  10. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  1. 経産省が国交省を行政指導する日は近い?! 企業の人権侵害の手引き公表

  2. ESGと経営戦略①マクセル が全固体電池の先駆に エネルギーのスマホ化を加速

  3. ディスコ Eco*Ten 10満点の8・0点 SDGsの総花的な贅肉を削ぎ、強い分野をより研磨する

  4. 政府、原発推進へ大転換 及び腰から本腰へ 本気度をEco*Ten 10点満点の3・5点

  5. 気候変動ランキング① CCPI 日本は59ケ国+EUのうち50位 政策の具体性と実現に低い評価

  6. Eco*ユニコーン創生 株式上場益の2倍相当を無利子で10年融資、脱炭素のブレイクスルーへ

  7. キーエンス Eco*Ten は10点満点の6・5点 環境は身の丈に合わせて努力

  8. 日揮 スシローなどとSAF生産、ESG・SDGsが背中を押した驚きの提携

  9. JFE 高炉から電炉へ 脱炭素の覚悟 過去の栄光と葛藤の末に Eco*Ten 6・5点

  10. スズキEco*Ten(上)伸び代はいっぱいですが、実行と成果はこれから

TOP