ESG・SDGsと企業経営

アミューズ 音楽・エンターテイメントから地方創生に挑む 音楽はいつも地域と共に

 大手エンターテインメントのアミューズが富士山麓を舞台に地方創生プロジェクトに取り組みます。6月末に公表した中期計画によると、「世界と日本を繋ぐオリジナルコンテンツの創造」を次の目標に掲げ、4つの領域を提示しました。「アーティスト」「クリエーター」「デジタル」に続く3つについては、エンターテイメント会社らしいと納得しましたが、4番目に提案したのが「ライフカルチャー」。地域・文化・体験を新しい事業の軸に据えたのには、驚きました。言い換えれば、地方創生への注力です。

富士山麓を舞台に挑戦

 アミューズといえば、サザンオールスターズ、福山雅治、パフュームなど国内外で大人気のミュージシャン、テレビや舞台で大活躍する俳優やタレントを抱える大プロダクションと理解していました。そのエンターテイメント会社がどう地方と関わりあうのか。地方に人を集めるためには国内外から注目を集める話題性が欠かせません。アミューズなら、ミュージシャンらのSNSなどを通じて情報を拡散する力に不足はありません。なるほどと驚いたのは私ぐらいかもしれませんが、とても興味深いのでアミューズの中期計画をのぞいてみました。

アドベンチャーで集客

 アミューズの地方創生は、「アドベンチャーツーリズム」を軸に考えているようです。同社によると、世界のアドベンチャーツーリズム市場は2021年から2030年までの9年間で100倍近くも膨らむと予想されおり、年間の平均成長率は28・8%と3割近い大幅なものです。

 日本に限らずコロナ禍の収束を受けて、世界の消費行動は再び勢いづいていますが、これまでのようにモノを購入することよりも、自然の中でさまざまな体験に挑戦する行動が重視されているとみています。1990年代、エコツーリズムという言葉が盛んに流行しました。有名観光地を巡るだけの旅行から、自ら体験したいスポーツ、学習したテーマに取り組むことが心身をリフレッシュするという考えです。コロナ禍後の価値観の転換を受けて2020年代の「エコツーリズム」はどう進化していくのでしょうか。日本はじめ世界各国の政府が積極的に観光に注力しているだけに、アミューズも自然環境を舞台にしたアウトドアツーリズムは伸びる可能性が高いと判断しています。

 第一弾はアミューズが本社を構える富士山麓エリアにまず拠点に据えます。エンターテインメント会社ならではのアイデアと資産を使い、宿泊・ショップ、飲食などの施設、地域の魅力を生み出すアドベンチャー、イベント、プライベート・ブランド商品の開発などに力を入れる計画です。

富士山は日本を代表する最強ブランド

 富士山は世界の観光客から日本を代表する観光ブランドとして高い人気を集めていますが、地方創生を狙った集客力でも期待できる地域ブランドです。地域の歴史、人、食材、文化などを一体化するとともに、アミューズならではのアイデアを加えてオリジナルコンテンツを創案。これを国内外に発信して、日本を訪れる外国人観光客らを富士山麓エリアに引き寄せる狙いです。

 アミューズの事業計画をみると、「地域総合プロデュース」「アクティビティコンテンツ開発」「テーマパーク、観光・宿泊・飲食」の3分野を設定して、この組み合わせで事業創造する考えです。5年計画で事業として足固めするとしています。すでにキャンプ場を設定し、体験型アドベンチャー として「ナイトウォーク~クライの森と6つの星~」を実施し、ノウハウを蓄えています。

全国各地のコンサートなどでノウハウは十分に

 アドベンチャーツーリズムといえば、新たな事業創造と思われますが、全国各地でコンサートを展開するエンターテイメント会社にとっては手慣れたものでしょう。例えばサザンオールスターズが2023年9月に神奈川県の茅ヶ崎で10年ぶりのコンサートを開催します。茅ヶ崎はサザンの歌の舞台で、”故郷”です。サザンがコンサートすれば、全国からファンが押し寄せ、宿泊、飲食、交通機関など地域経済に大きな貢献が見込まれます。

 富士山麓を舞台にアミューズがこれまでコンサートなど培ったイベントの経験にアウトドアのノウハウも加え、抱える人気アーティストを軸にしたエンターテインメントを展開すれば、山梨、静岡以外の県や都市にも波及効果が広がります。かなり強力なコンテンツが創造できるでしょう。事業の推移が楽しみです。

アミューズの中期経営計画はこちらから

https://ssl4.eir-parts.net/doc/4301/tdnet/2302718/00.pdf

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