全固体電池は熱に強く、寿命も長い、成形も自由に

 全固体電池は、リチウムイオン電池の課題の多くをクリアします。電解液がなく正極と負極の間に固体電解質のセパレーター層を利用するため、液体が抱える弱点を解消できます。高温・低温の温度変化に強く、燃えやすい材料を使用しないので、安定性と安全性が高まります。

 急速充電もこれまで以上のスピードで対応できます。スマホで体験済みだと思いますが、電池は急速に充電すると高熱になってしまいます。高温になると性能が劣化するリチウムイオン電池は、どうしても充電に時間がかかります。高温に強い全固体電池は発熱による心配が減るので、安全な急速充電が可能になります。

 しかも、寿命も長い。固体の電解質は電解液に比べて劣化が少ないためです。電解液の制約から解放され液漏れなどの心配もなくなります。電池の形状を小型にしたり、薄型にしたりと成形の自由度が一気に高まる恩恵も期待できます。

大容量のエネルギーを携帯する時が来るかも

 スマートフォンが手軽に使えるようになったのは、繰り返し充電できるリチウムイオン電池のおかげです。全固体電池はより利便性を高め、しかも自由に成形できるため、電気というエネルギーをこれまで以上に多くの用途で使えます。大容量の電気をスマホのように片手で持ち歩きできるかもしれません。いわばエネルギー携帯の時代です。

 EVにとどまらず幅広い機械でも多くの恩恵が見込めるだけに、電子部品メーカーのみならず自動車メーカーも開発を急いでいます。掃除機で知られる英国のダイソンが開発を宣言しましたが、結局開発を断念しています。まだまだ量産化へのハードルは高いものの、マクセルが世界で初めて量産化を開始したからといって、市場で高いシェアを占めることはないでしょう。

マクセル が先駆を切れば、開発・生産競争に拍車

 マクセルの量産化をきっかけに開発・生産競争が拍車がかかるのは確実。ただ、リチウムイオン電池の原理は日本で先行しましたが、実用化や生産では日本のメーカーは取り残されています。これから本格的に迎える電動化時代を迎えるわけですから、リチウムイオン電池から全固体電池へ移行は日本が巻き返す好機です。マクセルはその先駆として期待し続けていきたいです。

 

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