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1強ゆえの傲慢が生んだ経営の歪み、エネオス経営トップが連続で女性へのハラスメントで辞職

 新年にあたってのマネジメントメッセージ(要旨)について
当社は、本日、新年にあたり、代表取締役 副社長 宮田知秀が社長職代行として、グループ
社員に向けてメッセージを配信しましたので、要旨を下記の通りお知らせいたします。

                 記
能登半島地震で亡くなられた方々へのご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に心より
お見舞いを申し上げる。
経営トップによる不祥事が続く事態に、企業としての再生が必要であり、ステークホルダーの
皆様から信頼していただけるように努めることが急務である。
新経営体制については、社外取締役を中心に審議が進んでおり、4月発足に向け、2月に発表
したい。
また、従業員の皆さんが安心して働ける環境を再構築することも急務である。環境づくりに向
けては、執行のみならず、ENEOSホールディングスの社外取締役もステアリングメンバーと
して参画し、状況把握、評価、対策の実行までを確実に進めていく。特に、コンプライアンス遵守
とハラスメント撲滅は重点的に取り組む。
新経営体制が発足するまでも、エネルギー・素材の安定供給と、カーボンニュートラル社会の
実現に貢献する歩みを止めるわけにはいかない。
原則として、計画していることは、全てやり遂げていく。安全第一の徹底、製油所の計画外停止
防止策、カーボンニュートラル関連を含めた様々なプロジェクトの遂行、4月に予定されている
分社化の準備、組織風土改革の更なる強化など、確実に実行していきたい。
ENEOS再生に向け、皆さんの協力を今一度、お願いする。

 ENEOS(エネオス)が2024年1月4日、ホームページに掲載したメッセージです。この1年あまり、2代続けて経営トップが女性に対する不適切な行為が原因で辞職、あるいは解任した異常事態を受けた内容です。

この1年間で辞任続く

 まず1人目。異例の発表でした。2022年9月、エネオスホールディングスは会長グループ最高経営責任者(CEO)の杉森務氏が8月に退任した理由について、女性に対する不適切な言動だったと発表しました。退任した直後の8月時点では辞任理由について「一身上の都合」と発表していました。その後、「デイリー新潮」が杉森氏は沖縄県那覇市の高級クラブで「凄絶な性加害や被害者の骨折」となる行為を起こしたと伝えます。

 9月の退任理由の発表は、デイリー新潮の記事を否定できず、仕方なく認めた形です。隠蔽しておきたかったとの本音が露わになってしまい、上場企業の広報対応として最もやってはいけない後手、後手に回る典型例です。

 2人目。2023年12月19日、斎藤猛社長を解任したと発表しました。懇親会で酔っ払い、女性に抱きつく不適切な行為が原因です。最初に目にした時は、1年前の記事を勘違いして読んだのかと思ってしまいました。

 エネオスは国内シェアの過半を握る石油最大手のリーダーです。株式も上場しています。ESG、SDGsなどを理由に挙げなくても、社会性、公共性は意識しなければいけない会社のはずですが、こうも立て続けに、しかも女性へのハラスメントを理由に経営トップの座から降りるとは・・・。あってはいけない事態です。

エネオスは国内シェアの過半を握る

 企業取材が長い新聞記者をやっていましたから、エネオスとも縁があります。1990年の湾岸戦争が勃発した頃、石油・電力などエネルギー産業を担当する記者として付き合いが始まって以来、天皇と呼ばれた建内康興さんから西尾進路さんまで5代の社長経験者と何度も取材する機会を持ち、三菱石油、日本鉱業などの合併など水面下で動く大ニュースの取材ではたいへんお世話になりました。

 とりわけ渡文明さんは親しくしていただき、時々はお酒をご一緒にして雑談に興じながら、記事についてよく怒られたものです。当時は営業担当役員だったせいか、「日本石油で営業担当が社長に就任したことがないから、俺と付き合っても良いことはないぞ」と笑い飛ばすこともありました。ところが、2000年に社長就任。「実力を評価して選んだ経営トップの目は確かですね」とヨイショしたこともありますが、その期待を裏切ることなくライバル社を飲み込む合併を繰り返して巨大化するエネオスの経営戦略を指揮し続けました。

 歴代の社長のみなさんは当然、酒席では紳士的でした。当時はハラスメントという言葉すら存在しない時代ですが、社長として取引先のみなず多くの経営者らと一献を交わす機会が多いだけに、羽目を外すといっても自制心が働くのは当たり前でした。

社内風土で異変が?

 そんな歴代社長を傍から眺めていましたから、わずかこの2年間で2代連続して女性に対するハラスメントが理由で辞職する事態に首をかしげざるを得ません。驚くというよりも、エネオスの社内風土に異変が起こっているのではないかと心配してしまいます。

 言わずもがなですが、エネオスの経営トップは社内の経費で取引先などと接待し、交際費として税務処理しています。お金の支払いを気にせずに、東京・銀座だろうが沖縄・那覇だろうが高級クラブでお酒を飲むことは慣れています。私たちが居酒屋に行く感覚と同じと例えたら、言い過ぎでしょうか。

 高級クラブだからといって泥酔するほどはしゃぐとは思えません。まして経営トップが一人で飲むわけもありませんから、周囲にはエネオス社員や取引先などが同席する場合がほとんどでしょう。

内部通報で発覚

 実際、斉藤社長の場合、2023年11月末にコンプライアンス窓口への内部通報があり、発覚したそうです。ハラスメントなど法務を指揮するコンプライアンス部門のトップである谷田部靖副社長が同席していたというのですから、呆れるという表現を飛び越えます。副社長は勧告を受け入れて辞任したのもうなずけます。常務も同席しており、こちらも女性に対する不適切な発言があったとして、月額報酬30%を3カ月間減額しました。信じられない不祥事を受けて大田勝幸会長は月額報酬の30%を6カ月間、社長職を代行する宮田氏も月額報酬の30%をそれぞれ自主返上しています。

 エネオスは2022年の杉森氏の不適切行為による辞任を受けて、役員向けの研修など再発防止策に取り組んでいました。前社長の斉藤氏は「度を超した飲酒をしたこと自体が問題であり、自制ができておらず大変恥ずかしく申し訳ない」と謝罪しているそうですが、社内の模範となる役員が再発防止の研修を受けながら、同じ過ちを繰り返される。社員じゃなくても、エネオスという会社を動かす歯車がおかしくなっていることがわかります。

脱化石燃料に向けての改革が待ち構えている

 日本の石油業界を牛耳るほどの力を握るエネオスです。世間の厳しい視線を忘れるほど傲慢になってしまったのでしょうか。部下、あるいは社内が自由闊達に意見できる社風が消えてしまったのでしょうか。

 エネオスはカーボンニュートラルに向けて脱炭素、脱化石燃料の時代でも生き残る経営改革が待ち構えています。水素など脱石油に代わるエネルギーの事業化にすでに取り組んでいますが、石油精製施設、ガソリンスタンド網など日本石油時代から築き、継承する資産をどう活かすかはこれからです。「油を売っている暇はないのです」 

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