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SOMPO 櫻田会長・辞任 経営の信用を補償する保険はない

 個人投資家から繰り返し聴くエピソードがあります。「1億円稼いだら、2億円。次は10億円。お金を目の前にするともっともっと欲しくなる。欲望に上限はない」。目の前に札束が積まれると、もっと高く積み上げたい。金融の世界にどっぷり浸かると、知らない間にマネーの魔力から抜け出せなくなると言います。

マネーの魔力は倫理を吹き飛ばす

 だからこそ、金融機関には高い志が求められ、実践しなければいけない義務を背負っています。「本音と建前」の使い分けはありえないのです。当たり前です。多くの人から貴重な資金を集め、企業や自治体に融資して経済や日常社会をより良くするために運用するのですから。他人のお金が自分のモノと勘違いしたら、犯罪です。お金の扱いは中立公正。金融機関が最も大事にしなければいけないものは信用力。

 ところが、金融業界の現実は、違います。長年築き上げた信用を盾に、その裏に隠れて巨額の利益を手にするために突っ走ってしまう。時には経営破綻に追い込まれる。2008年のリーマンショックがその典型例です。

 SOMPOホールディングスの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者が3月末に退任するそうです。子会社の損害保険ジャパンが保険金を不正請求したビッグモーターとの取引で不正に関与した疑いが問われ、白川儀一社長はすでに1月末で辞任することが決まっています。桜田会長はビッグモーターの問題が発覚した際、白川社長が指示した取引再開を知らなかったことを理由に辞任の考えはないことを明らかにしていましたが、結局は辞任に追い込まれました。

櫻田氏は運が悪かっただけ?

 損害保険会社とビッグモーターを巡る不祥事の経緯は説明不要でしょう。損害保険ジャパンは東京海上日動火災保険、三井住友海上火災保険と共に出向者を送り出し、事故車両の修理や紹介などで深い取引関係を維持していました。2022年夏に不正な請求が発覚した際、東京海上と三井住友の2社は取引を中止しましたが、損保ジャパンも中止したものの、一時再開しました。

 損害保険会社とビッグモーターの不祥事は、金融機関が長年、築き上げた信用に大きな傷をつけました。ESG、SDGsと社会的な貢献を大きな看板に掲げ、その社会実現に向けて大見えを切ってきました。しかし、その看板はすでに地に堕ちました。日頃、信用第一、社会的な貢献を謳いながら、自ら毀損する。壊れた経営に掛ける保険はないことを知っていたのでしょうか。

 金融庁は1月25日、損害保険ジャパンと親会社のSOMPOホールディングス(HD)の両社に対し、ビッグモーターの不正行為に関連して保険業法に基づき業務改善命令を出しました。損保ジャパンは顧客利益を忘れ、SOMPOHDは子会社の監督が不適切と判断、行政処分を下しました。業務改善命令の措置では甘いのではないかとの議論がありますが、SOMPO自身が自らの姿勢を正し、どこまで律するかが注目されます。

 もっとも、櫻田謙吾氏は運が悪かったのかもしれません。経済同友会の代表幹事を務め、企業は利益にばかり目を奪われず、より公平な社会に貢献することを企業に求めれていました。ところが、その足元の損保ジャパンは収益を重視し、ESGの基本を忘れていたようです。

 櫻田氏は出向者が不正請求に関する証言内容の改ざんに携わっていたことについて知った時期を「2023年7月だった」と話しています。時系列で振り返れば、白川社長が知ってから1年後になる計算です。櫻田氏が知る1年前に損保が不正事案について、調査して白川社長らが役員会で討議しています。

 「知らなかった」と主張する櫻田氏は親会社会長として損保ジャパンの取締役を兼務しています。保険金の不正請求はコンプライアンス(法令順守)上の重要問題であり、金融機関、経済人としてESG、SDGsの普及を声高に説いてた損保ジャパンの親会社トップを務め、経済同友会代表幹事という立場からみても「絶対に」という形容詞がつくほどの重要案件です。「知らなかった」と言える案件とは思えません。

HPは「真摯にサステナブルな社会」を強調するが

 2024年1月25日現在、SOMPOホールディングスのホームページには次のように掲載されています。金融庁から業務改善命令を受けた直後とはいえ、対外的な発信に首を傾げざる得ません。

グループCEOからのご挨拶

また、当社グループは、経営の健全性が確保されるよう、先進的かつ強固なグループガバナンス体制の構築にも取り組んでいます。2019年6月に指名委員会等設置会社へ移行し、社外取締役を中心とした厳格な監督体制を整備しました。指名委員会、監査委員会および報酬委員会の3つの法定委員会では、いずれも社外取締役が委員長を務め、グループガバナンスの強化に向けた公正かつ活発な議論が行われています。
業務執行体制においては、グループCEOおよびグループCOOの全体統括のもと、事業オーナー制およびグループ・チーフオフィサー制を採用しており、敏捷かつ柔軟な意思決定および業務執行ならびに権限・責任の明確化を図っています。Global Executive Committeeと経営執行協議会(Managerial Administrative Committee)という2つの会議体を設置して、両者の機能を最大限に活用することで、グループの持続的な成長を支える実効性の高い執行体制の構築を目指しています。

当社グループは、自らが果たすべき役割を進化させ、企業価値を向上させるとともに、多様なステークホルダーの皆さまに真摯に向き合いながら、様々な課題解決やサステナブルな社会の実現を目指していきます。
今後ともなお一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

SOMPOは「安心・安全・健康のテーマパーク」

 ホームページには会社名「SOMPO」のロゴの下に「安心・安全・健康のテーマパーク」。そう企業経営は楽しむものであり、ソンポを信用して掛け金を支払う被保険者はより潤いのある生活を暮らしたいと考えています。しかし、保険会社が顧客を忘れて楽しんでしまったら、テーマパークで遊んでいるのと同じです。怪我をしたら、損害保険が手助けするかもしれませんが、損害保険会社の経営の瑕疵は誰も補償しません。しかも、損するのは被保険者です。

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