地球環境

バブル以前に終わる日本のESG・SDGsバブル 体面を重んる薄ぺらな化粧はすぐに剥げ落ちる

 やっぱり薄っぺらいブームだったのでしょうか。なんとも格好がつかない。日本のESGやSDGsをめぐる投資です。

欧米で見直し機運

 日本は欧米に比べ出遅れていましたが、ようやく環境のみならずESG、SDGs関連の投資に関心が高まってきていました。ところが日本の投資金額が増え始めようという矢先に、欧米でESGやSDGsの投資が壁にぶつかっています。その有り様を見て、やはりESGとは名ばかり。実態は地球環境、社会貢献の名目に隠れた純投資だったと批判が巻き起こります。言い換えれば、これまでの投資案件と実態は変わらない。声高に推進していた世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEOは、非難の的にされ、米国の数州から締め出される事態も起こっています。

日本ではバブル崩壊論

 欧米の空気に乗じたのか、日本でも「ESG・SDGsの投資バブルは崩壊した」という趣旨の書籍が出版され始めました。投資バブルという言葉そのものに甚だ疑問を覚えますが、ただでさえ投資音痴の日本が世界金融の新しい潮流からはじき飛ばされるのではないかと危惧せざるをえません。

 日本のESG投資の現状を見てみます。野村証券が2022年12月に公表した調査によると、個人投資家が「この1年でESG投資を重視するようになった」という答は前回の2021年12月時の38・8%から36・5%も低下しました。わずか1年間で3ポイントも落ちたのです。企業のESGへの取り組みに対する関心はもっと冷めています。「関心がある」との答は前回の53・3%から47・5%に低下したのに対し、「関心がない」は40・6%から45・8%へと5ポイントも上昇しました。

 背景には、投資収益率に対する考え方にあるようです。ESG投資と投資収益率について質問したところ、「投資収益率が重要。ESG要因を考慮する必要はない」と答えた人は前回の7・2%から13・5%へ大きく上昇しています。

個人投資家にはまだ根付いていない

 一方、「投資収益率が重要だが、ESG要因もある程度考慮する必要がある』と答えた人は51・2%から45・7%へ減少しています。「投資収益率以上にESG要因を考慮する必要がある」も20・9%から19・2%に落ち込みました。当然、「ESGに関連した金融商品に関心はないという答は38・5%から40・6%へ増えています。

 野村証券は「個人投資家のESG、ESG投資に対する関心はこれまで漸進的に高まってきたが、今回の調査結果からは一巡感がうかがえる」と結論付けしています。

 ESG・SDGs関連のイベントを訪れると、廃棄物を有効に活用するリサイクル、自然由来の商品開発などに交じって金融関連のコーナーがかならずあります。太陽光や風力など再生可能エネルギーを利用する発電システムを対象にした投資商品などが並んでいます。個人投資家に限らず、太陽光や風力による発電を対象にした金融商品は新鮮に映るのでしょう。「地球環境にやさしい」というキャッチフレーズも、一度は投資しても良いのかなと心をくすぐります。

 個人投資家と違って巨額資金を運用する機関投資家でも実際は地球環境、ESGなどを対象にした投資は、かなりスタートが遅れています。日本でESG投資は急速に拡大しているのは事実ですが、日本でESG投資が本格化したのは2015年以降。2019年末時点で日本のESG投資市場の規模は2兆8740億ドルで世界第3位となっていますが、米国の17兆810億ドルと欧州の12兆170億ドルとの格差はかなり開いています。

政府主導の限界が露呈

 欧米との大きな格差は、ESGに対する姿勢の違いを表しています。三田評論4月号で法政大学大学院の小方信幸教授が指摘しています。「日本のすべての投資家がESG投資を深く理解しているであろうか」。欧米に比べ歴史が浅いので、政治、経済、社会の大きな変化の中でESG要因と対峙した経験がほとんどないのが実情です。「市民社会から生まれたものではなく、政府主導で生まれたものである」と喝破しています。

 日本が政府主導で増え始めたということは、ESGに関連した金融が根付いていないことを語っています。欧米との格差を是正して国際的な見映えを意識して、日本のESG投資を増やさざるを得ない政府の思惑が根底にあります。だから、日本のESG投資市場が短期間で急速に発展したものの、政府の掛け声が止まると、止まってしまう。日本に根付いていない証拠です。

 小方教授はもう一つ見逃せない日本の欠落を指摘しています。米国の証券アナリスト協会の教科書を見て驚いたそうです。ベンサムやカントなど哲学、倫理について解説があり、投資哲学の基礎として説いていたからです。日本の場合、政府主導の面を除いたとしても、ESG投資を倫理などの視点から本気で議論してきた機会がまだ少ないのが実態です。結局は、儲かるのか、儲からないのか。「儲かるのか」の視点には、銀行・保険など金融機関のみなら経団連の加盟会社として社会的な批判を浴びないような対策としてESGを前面に押し出す企業も含まれます。

 だからなのでしょう。日本のESG、SDGs関連の投資に対する批判は、結局は短期的な見返りはなかったのではないかという議論が浮上します。政府が国際的な体面を考えて無理やり増やしたものの、エネルギーの高騰などに直面すると石炭など化石燃料を使った発電所、原子力発電所の再稼働などを是非とも実行しなければいけない。ESG、SDGsの流れに身を任す余裕などはない。「背に腹はかえられない」という論理が罷り通ります。

振り子の反動で済むか

 太陽光発電所などを推進する無駄を説き、再び化石燃料を使った高効率の石炭火力などに注目し、日本が先頭を切るべきだと主張します。ESG投資は絵に描いた餅と言わんばかりです。既存の権益を犯されたとばかりの反論にはちょっと引きざるを得ません。日本のESG、SDGsの議論の薄い皮がペロッと剥けた瞬間を見た思いでした。剥けた皮は治療できます。仕切り直しの覚悟をする必要もありません。もう一度、真剣にESG、SDGsを考えるだけで十分です。

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